無断転用は悪いと知っていながらやるなんて、確信犯だと思います!
ちょっと待ってください!
その確信犯の使い方、もともとの意味とは異なります。
そうなんですか?
「悪いとわかっていて故意にやる」のが確信犯かと思っていました。
確信犯のもとの意味は、「信念に基づき、正しいと信じて犯罪を行うこと」です。悪いとわかってやる、というのは誤用が広まったものです。
今回は、確信犯の本当の意味について詳しく解説します。
目次
確信犯の本当の意味
文化庁月報「言葉のQ&A」には、「確信犯」として次の記載があります。[注1]
【文化庁月報 平成24年5月号 連載「言葉のQ&A」】
「確信犯」の意味
政治的・思想的・宗教的等の信念に基づいて正しいと信じてなされる犯罪行為、又はその行為を行う人のことです。
知りませんでした!
それでは、「悪いとわかっていてやる」というよりは、「正しいと信じてやる」行為ということでしょうか。
もとの意味はそのようです。
確信犯の意味を、辞書でも確認してみましょう。
デジタル大辞泉には次のように記載されています。
【確信犯の意味】
かくしんーはん【確信犯】
1 政治的・思想的・宗教的等の信念に基づき、本人が悪いことでないと確信してなされる犯罪。思想犯・政治犯・国事犯など。
2 «1から転じて» 悪いことだとわかっていながら行われた犯罪や行為。また、その行為を行った人。「違法コピーを行っている大多数の利用者が確信犯だといえる」
◆「時間を聞き違えて遅れたと言っているが、あれは確信犯だよね」などのように、犯罪ほど重大な行為でない場合にも用いる。
本来は、「信念に基づき、悪いことでないと確信して行われる犯罪のこと」なのがわかりました。
そうです。
「確信犯」は、法律関連の学術用語として使われ始めたものです。
「政治的・思想的・宗教的信念に基づき、正しいと信じて行う犯罪」のことを指します。
今では、私も含めて大多数の人が、「悪いとわかっていながら、行うこと、人」を指して使っています。
これは、本来の意味から転じて、広まった意味だとわかりました。
信条に基づいて行う犯罪ということで、テロリズムなどもこれに当てはまります。
ほかにも、安楽死への関与、兵役拒否、亡命の手助け、などがこれに当てはまるでしょう。
行為者は「自分は正しい」と信じていることがポイントです。
[注2]参考元:小学館/デジタル大辞泉
確信犯の由来:ドイツの法哲学者ラートブルフが提唱
確信犯は、もともとはドイツの法哲学者のラートブルフが提唱したものです。
確信犯は、ドイツ語で「Überzeugungstäter」(ユーバーツォイグングス・テーター)といいます。
由来はドイツですか!
普段、何気なく使っている言葉も、さまざまなルーツがあって驚きます。
ドイツ語の「Überzeugung」は、「確信・信念」という意味があります。Täterは、「犯人・加害者」という意味です。
ラートブルフは、政治犯に対して、少なくともその動機は崇高なものであると考えたようです。
「確信犯」ではなく、「信条犯罪」「信仰犯人」とでも訳したほうが、意味の誤解を避けられたかもしれないと思ってしまいます…
[注3]参考元:三修社/アクセス独和辞典
【使い方】確信犯の2つの使い方を例文で解説
確信犯の使い方を、本来の用法と、誤用で広まった用法に分けて、例文で確認しましょう。
【例文:確信犯の本来の用法】
彼が政治犯の亡命を助けたのは確信犯だったようです。
あの医師が安楽死に関与したのは確信犯です。患者のご家族からの相談に心が動いたのでしょう。
あの殺人は、神の国に行くためと思っての確信犯だったのでしょう。
【例文:確信犯の誤用で広まった用法】
彼は、財布を忘れたと言っては女性に奢らせるようです。確信犯でしょう。
彼は、いつも聞き間違えたふりをしてトラブルを起こすけれど、あれは確信犯だよね。
彼女が、結婚を匂わせて高いブレゼントを買わせているのは確信犯だ。
なるほど。
本来の用法では「信条に基づく犯罪・行為」、誤用で広まった用法では「悪いとわかっていて行う犯罪・行為」として使われることがわかりました。
【誤用】約70%の人が意味を間違えている
「確信犯」を本来の意味とは違う意味で使う人は多いのでしょうか?
多いです!
文化庁の平成27年度「国語に関する世論調査」では、約70%の人が確信犯の意味を誤用で広まった意味として使っていることがわかります。
【文化庁/平成27年度「国語に関する世論調査」】
確信犯 (例文:そんなことをするなんて
確信犯だ)
平成27年度 平成14年度 ア:政治的・宗教的等の信念に基づいて正しいと信じてなされる行為・犯罪又はその行為を行う人 17% 16.4% イ:悪いことではあると分かっていながらなされる行為・犯罪又はその行為を行う人 69.4% 57.6% アとイの両方 5.1% 3.9% アやイとは全く別の意味 2.7% 3.3% 分からない 5.7% 18.8%
確信犯が「政治的・宗教的等の信念に基づいて正しいと信じてなされる行為・犯罪又はその行為を行う人政治的・宗教的等の信念に基づいて正しいと信じてなされる行為・犯罪又はその行為を行う人」と回答した人はわずか17%です。
誤用で広まった「悪いことではあると分かっていながらなされる行為・犯罪又はその行為を行う人」と回答した人は69.4%と、なんと約70%という結果です。
驚きました。
約70%の人が誤用で広まったほうの意味で使っているのですか!
[注1]文化庁/平成27年度「国語に関する世論調査」の結果の概要[pdf]
確信犯の類語
「確信犯」の類語があれば教えてください
わかりました。
「思想犯」「政治犯」「国事犯」この3つです。
【思想犯】
意味:国家体制に相反する思想に基づく犯罪。また、その犯人。特に、もと治安維持法に触れた犯罪、およびその犯罪者をいう。
例文:あの場所には思想犯が多く収容されている。
【政治犯】
意味:国の政治的秩序を侵害する罪。広くは政治的動機によって犯される罪。また、その犯罪者。国事犯。
例文:政治犯には恩赦もある。
【国事犯】
意味:国の政治上の秩序を侵害する犯罪。内乱罪や政治的騒乱罪などがこれにあたる。
例文:彼は国事犯として追放された。
[注2]参考元:小学館/デジタル大辞泉
間違えやすい慣用句
確信犯のほかにも、間違えやすい慣用句を教えて下さい。
わかりました。
奇特
「奇特」は、「優れて他と違って感心なこと」を意味します。
ところが、「奇妙で珍しいこと」という意味だと思っている人も多くいます。
【文化庁/平成27年度「国語に関する世論調査」】
奇特 (例文:彼は奇特な人だ)
平成27年度 平成14年度 ア:優れて他と違って感心なこと 49.9% 49.9% イ:奇妙で珍しいこと 29.7% 25.2% アとイの両方 5.0% 4.1% アやイとは全く別の意味 4.8% 4.1% 分からない 10.6% 16.7%
「優れて他と違って感心なこと」と正答している人は、約半数だけなのがわかりました。
「彼は奇特な人だ」と言ったら、「彼は優れてほかと違う人だ」という意味です。
「彼は奇妙な人だ。珍しい人だ」という意味で使わないよう注意してください。
寝覚めが悪い
本来の言い方を間違えてしまうことも多いようです。
「眠りから覚めたときの気分が悪いこと」は「寝覚めが悪い」です。これを「目覚めが悪い」と間違えて言ってしまう人が57.9%もいます。
【文化庁/平成27年度「国語に関する世論調査」】
「眠りから覚めたときの気分が悪いこと」を 平成27年度 ア:「寝覚めが悪い」を使う 37.1% イ:「目覚めが悪い」を使う 57.9% アとイの両方とも使う 3.0% アとイのどちらも使わない 1.6% 分からない 0.4%
確かに「寝覚め」と「目覚め」は似ています。それで間違えてしまうのでしょうか。
「寝覚めが悪い」を使うように気をつけます!
[注1]文化庁/平成27年度「国語に関する世論調査」の結果の概要[pdf]
このほかにも、記事ブログ内に、間違えやすい慣用句について私が解説した記事があります。「琴線に触れる」という言葉の由来である感動的な中国故事もご紹介しています。ぜひ御覧ください↓
誤用が広まって定着することもある
「確信犯」の本当の意味は、「正しいと信じて行う犯罪行為」でした。しかし、この意味が「悪いとわかっていながら行う行為」と誤用が広まってしまい、今では一般化しています。
新しい意味での使用が増えるにつれ、ついには定着してしまったようにも感じます。
そうはいっても、言葉を扱う仕事をするなら、本当の意味を知っていることは大切です。慣用句を使用するときには、しっかり調べてから使いましょう。