「琴線に触れる」の意味を「怒りを買う」と誤答する人が30%!本来の意味や語源を解説

琴線に触れるの意味や語源を解説

「琴線に触れる」という言葉の意味は、「心の奥に秘められた感じやすい心情を刺激して、感動や共鳴を与えること」です。[注1]

心の奥にある感じやすい心情を、琴の糸になぞらえた美しい言葉です。

ところが、約30%の人が「琴線に触れる」の意味を「怒りを買う」と勘違いしているというデータもあります。

今回は、この美しい慣用句「琴線に触れる」「琴線に触れた」の本来の意味を解説し、語源となった中国故事もご紹介いたします。

類語・対義語・使い方の例文もお伝えいたします。英語にもある「琴線に触れる」の表現など、ぜひ確認してみてください。

[注1]文化庁/文化庁月報/連載「言葉のQ&A」/「琴線に触れる」の意味

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【意味】「琴線に触れる」とは感動や共鳴を与えること

琴線に触れるの本来の意味

「琴線に触れる」とは、「心の奥に秘められた感じやすい心情を刺激して、感動や共鳴を与える」という意味の慣用句です。[注1]

「琴線に触れる」「琴線に触れた」という言葉を、「怒りを買うこと」と勘違いしている人多いようですが、これは間違いです。

「彼の演奏はいつも私の心の琴線に触れる」という場合、「彼の演奏はいつも私を心から感動させる」という意味です。

まず、琴線の意味を確認しましょう。

【明鏡国語辞典 第二版】

きんせん【琴線】

1. 琴(こと)の糸。

2.物事に感動し共鳴する胸奥の心情

「心のーに触れる話」

注意 「琴線に触れる」を、触れられたくないこと、深いな話題に触れる意で使うのは誤り。

「✕ 私の一言が彼の琴線に触れたのか、急に怒り出した」

 

【デジタル大辞泉】

きんせん【琴線】

1. 琴の糸。

2. 心の奥深くにある、物事に感動・共鳴しやすい感情を琴の糸にたとえていった語。「心のーに触れる言葉」

◆2は、「琴線に触(ふ)れる」で成句となり、良いものに感銘を受ける意で使う。不愉快になる意で用いるのは誤用で、その意味では「気に障る」「癪に障る」などの表現がある。

つまり、「琴線(きんせん)」とは、心の奥深くにある感動・共鳴しやすい感情のことです。

慣用句「琴線に触れる」としては、デジタル大辞泉に次の記載があります。

【デジタル大辞泉】

琴線(きんせん)に触(ふ)れる

«琴線は、物事に感動しやすい心を琴の糸にたとえたもの» 良いものや、素晴らしいものに触れて感銘を受けること。「心のー・れる」

 

また、文化庁月報には、次の記載があります。[注1]

【文化庁月報/平成24年9月号】

問1 「琴線に触れる」とは、本来どのような意味でしょうか。

答 心の奥に秘められた感じやすい心情を刺激して、感動や共鳴を与えることです。

 

心の奥深くに、物事に感動したり共鳴する琴の糸が秘められているとイメージすると、なんだか素敵ですね。

 

[注1]文化庁/文化庁月報/連載「言葉のQ&A」/「琴線に触れる」の意味

 

【誤用】意味を間違える人が約30%・意味が分からない人が約20%

琴線に触れるに怒りの意味はない

そんな「琴線に触れる」という表現ですが、平成27年度「国語に関する世論調査」によると、31.2%もの人が、「怒りを買う」と意味を勘違いしていることがわかっています。

さらに、意味を「分からない」と回答した人も21.8%いるため、「怒りを買う」と勘違いしている31.2%と合わせると、半数の人が「琴線に触れる」の意味の理解があやふやだということです。[注2]

 

【文化庁/平成27年度「国語に関する世論調査」】

琴線に触れるの意味 平成27年度 平成19年度
(ア)感動や共鳴を与えること(正答) 38.8% 37.8%
(イ)怒りを買ってしまうこと 31.2% 35.6%
(ア)と(イ)の両方 3.4% 1.4%
(ア)や(イ)とは全く別の意味 4.8%  0.6%
分からない 21.8% 24.6%

 

 

それでは、なぜ、「琴線に触れる」の意味を「怒りを買ってしまうこと」と勘違いしてしまうのでしょう。

 

[注2]文化庁/平成27年度「国語に関する世論調査」の結果について/p25「慣用句等の意味・言い方」[pdf]

 

「逆鱗(げきりん)に触れる」と混同されがち

「琴線に触れる」という言葉の本来の意味は、「心の奥深くに感動や共鳴を与えること」です。

では、なぜ「怒りを買う」という意味に勘違いされてしまうのでしょう。

それは、「逆鱗に触れる」という言葉と「に触れる」の部分が同じであるため、意味が混同されてしまったと考えられます。

「琴線」は、心の奥深くにある感じやすい心情のことを指します。一方、「逆鱗」は次の意味があります。

【明鏡国語辞典 第二版】

げきりん【逆鱗】

天子の怒り。また、目上の人の怒り。

◆逆鱗に触(ふ)れる

天子の怒りに触れる。また、目上の人を激しく怒らせる。

「彼の発言が師のー」

語源:竜の喉元(のどもと)には逆さに生えたうろこがあり、人がそれに触れれば必ず殺されるという中国の故事に基づく。

琴線と逆鱗では、ずいぶん意味が違いますね。

 

  • 琴線(きんせん): 物事に感動し共鳴する胸奥の心情。
  • 逆鱗(げきりん): 天子の怒り。また、目上の人の怒り。

 

混同しないよう気をつけましょう。

 

「癪に障る(しゃくにさわる)」「癇に障る(かんにさわる)」の影響も?

「癪(しゃく)に障(さわ)る」「癇(かん)に障(さわ)る」の影響も考えられます。

障るの響きの「さわる」が、「ふれる」と、どこか混同しやすいからです。

ちなみに、「癪に障る」「癇に障る」は、デジタル大辞泉によると次の意味があります。

【デジタル大辞泉】

癪(しゃく)に障(さわ)る

腹が立つ。気に障る。癇(かん)に障る。「ーる態度」

癇(かん)に障(さわ)る

気に入らないで腹立たしく思う。「あの話し方がー・る」

どちらも「腹立たしく思う」意味があります。

これらと混同して、「琴線に触れる」を「怒りを買う」とイメージしてしまうのかもしれませんね。

 

ほかにも、意味を間違えている人が多い言葉はたくさんあります。記事ブログ内に、「話のさわり」など、誤用の多い言葉をわかりやすく解説した記事があります。こちらも、ぜひ、御覧ください↓

「話のさわり」とは話の中心部分!本来の意味・誤用・使い方・類語

 

【例文】「琴線に触れる」の使い方

「琴線に触れる」の「琴線」は、単独では使いません。慣用句なので、「琴線に触れる」「琴線に触れた」をひとまとまりの言い回しとして使います。

 

【例文:琴線に触れる】

小説の主人公の言葉は、私の心の琴線に触れた

彼女のピアノの演奏は、聞く人の心の琴線に触れる

琴線に触れる旋律を作りたい。

彫刻の力強いフォルムが琴線に触れた

あなたの声はいつも私の心の琴線に触れる

あの琴線に触れる景色をもう一度見たいと願っている。

 

「琴線に触れる」は、例文のように、「良いものや、素晴らしいものに触れて感銘を受けること」という意味で使いましょう。

 

【類語】感動する・心を動かす…

琴線に触れるの類義語と対義語

「琴線に触れる」では伝わりにくいこともあります。そんなときには、類義語で言い換えてみましょう。

 

【類語:琴線に触れる】

  • 感動する   : ある物事に深い感銘を受けて強く心を動かされること
  • 感銘を受ける : 忘れられないほど深く感動すること
  • 心に響く   : 強く感動して印象に残る
  • 心を動かす  : 心を打たれる
  • 胸を打つ   : 強く感動させる
  • 魂を揺さぶる : 心に残るような強い印象があるさま

 

など、たくさんの類語で言い換えられます。

いずれも、深く感動する意味があります。それぞれの類義語を使い分けてみましょう。

 

【類語の例文】

  • 映画のラストシーンで深く感動した
  • 先生の言葉に感銘を受けた
  • 彼女のバイオリンの音色が心に響いた
  • 創業者のスピーチに心が動かされた
  • 子どものまっすぐな瞳が胸を打つ
  • 魂を揺さぶるような歌声。

 

「琴線に触れる」も美しい言葉ですが、感動を表す言葉にはバリエーションがあります。文章作成の際には、心情を的確に表現できる言葉をあてはめましょう。

 

【対義語】無感動・無関心…

「琴線に触れる」の対義語は、心が動かされない様子を表現する言葉があてはまります。

 

【対義語:琴線に触れる】

  • 無感動
  • 無関心
  • 気にかけない
  • 気に留めない
  • 興味を持たない
  • どこ吹く風

 

例文で確認してみましょう。

 

【例文:「琴線に触れる」の対義語】

  • 彼は、その演奏を聴いて、無感動な表情を浮かべた。
  • 何を言われようと、無関心を貫く。
  • 母親の言葉を気にかけない
  • その映画のストーリーに興味を持たない
  • 偉人の名言もどこ吹く風である。

 

「琴線に触れる」に対して、どれも心動かされない様子を表現しています。

 

【語源】「琴線に触れる」の由来は中国故事

中国故事の伯牙と鍾子期

「琴線に触れる」の語源は、中国故事にあります。

周の時代、伯牙(はくが)と鍾子期(しょうしき)のお話から生まれました。

 

【中国故事】

古代中国に、伯牙(はくが)という琴の名手がいました。

伯牙には鍾子期(しょうしき)という友人がいました。鍾子期は、伯牙の琴の音を聞くだけで、そこに込められた伯牙の心情を理解しました。

伯牙が、高い山に登ったときの心境を表現しようと琴を弾くと、鍾子期は「素晴らしい。その音色はまるで高くそびえる泰山のようだね」と、必ず理解します。

伯牙は、「君が琴の音色を聴いている耳は、まるで私の心の中のようだ」と言いました。

 

ここから、人の心の奥底にある感じやすい心情を琴線になぞらえた「琴線に触れる」という言葉が生まれました。

この逸話の舞台とされるのが、中国・武漢の古琴台です。

 

古琴台の友情

古琴台

中国・武漢の古琴台(こきんだい)は、中国の「呂氏春秋」や「列子」に記された、伯牙と鍾子期のエピソードの舞台とされています。

「琴線に触れる」の由来とされる、さきほどのエピソードを、もう少し詳しくご紹介します。

 

【呂氏春秋】

原文:

伯牙鼓琴,鍾子期聽之。方鼓琴而志在太山;鍾子期曰「善哉乎鼓琴巍巍乎若太山」少選之間,而志在流水;鍾子期又曰「善哉乎鼓琴,湯湯乎若流水」鍾子期死,伯牙終身不復鼓琴,以為世無足復為鼓琴者

意味:

伯牙が琴を弾くと、鍾子期はこれをいつも聴いていました。

伯牙が太山にいるような心情で琴を弾くと、鍾子期は言いました。「よいですね。まるで太山のような琴の音色です」

また、伯牙が川の流れのような心情で琴を奏でれば、鍾子期は言いました。「よいですね。まるで川の流れのようだ」と。

やがて鍾子期は死にました。伯牙はこの世に琴を弾いて聞かせるに足る人がいなくなったと、生涯、琴を弾くことはありませんでした。

 

鍾子期が、伯牙の琴の音色を聞いただけで、彼の心情や曲の意を理解した様子から、心の奥底から理解し、共鳴し、感動する意味の「琴線に触れる」という言葉が生まれました。

また、伯牙と鍾子期のエピソードから、ほかにも有名な言葉が生まれています。

 

高山流水

上記のエピソードから、「高山流水」という言葉も生まれました。

【三省堂/新明解四字熟語辞典】

こうざんーりゅうすい【高山流水】

すぐれて巧みな音楽、絶妙な演奏のたとえ。また、自分を理解してくれる真の友人のたとえ。

琴の音色で通じ合えた伯牙と鍾子期の関係から、「絶妙な演奏」「真の友人」のたとえとして用いられます。

 

断琴の交わり

「断琴の交わり」という言葉も生まれました。

【デジタル大辞泉】

だんきんーのーまじわり【断琴の交わり】

«中国、春秋時代、琴の名手伯牙が自分の奏でる心を完全に理解した友人鍾子期の死後、琴の弦を断ったという「列子」湯問の故事から»最も通い合う友情。

伯牙は、鍾子期の死後、自分が奏でる琴の音色を理解してくれる友を失った嘆きから、琴の弦を断ち切り、終生、琴を演奏することはありませんでした。

そのことから、「最も通い合う友情」として、「弾琴の交わり」という言葉が生まれました。

中国・湖北省・武漢市の古琴台を訪れると、伯牙と鍾子期の逸話を題材とした記念碑があります。

 

英語で「琴線に触れる」:touch one’s heartstrings

英語にも「琴線に触れる」という意味にあたる言葉があります。

  • touch one’s heartstrings.
  • tug (pluck,pull,tear)at one’s heartstrings.

 

どちらも、「感情を揺り動かす」「心の琴線に触れる」という意味の表現です。

「heartstrings」なんて、まさに心の琴線にぴったりあてはまって面白いですね。

例文で使い方を確認してみましょう。

 

【例文:英語版「琴線に触れる」】

The story touched his heartstrings.

意味:そのストーリーは彼の心の琴線に触れた

The movie tugged at my heartstrings.

意味:その映画は私の琴線に触れた

 

さらに、ドイツ語にも、「琴線に触れる」という意味にあたる言葉があります。

【ドイツ語:琴線に触れる】

  • eine Saite in js. Herz anschlagen.
  • eine Saite in jemands Herz anschlagen.

(心の中の弦を弾く)

 

東西の複数の国で、「琴線に触れる」と似通った慣用表現があるようです。知れば知るほど、言葉は面白いですね。

 

取材記事代行屋取材記事代行屋

慣用句の意味を確認しよう

「琴線に触れる」は、心の奥底に感動や共鳴を与えるという意味を持つ、とても美しい言葉です。

約3人に1人が意味を誤解しているのは、残念です。ほかにも、似ているほかの言葉の影響で、意味を誤解されがちな慣用句はたくさんあります。

「もしかして意味を間違えていないかな?」と少しでも感じるときには、手間がかかっても確認してみましょう。思わぬ勘違いをしているかもしれません。

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