「夏の風」をあらわす言葉|日本の夏を彩る季語

「夏の風」をあらわす言葉|日本の夏を彩る季語

「夏の風」は、さまざまな美しい言葉で表現されます。

 

  • 薫風(くんぷう):若葉の香りを運んでくる爽やかな南風
  • 涼風(すずかぜ):夏の暑さの中で、ふとした瞬間に感じる涼しい風
  • 送り風(おくりかぜ):お盆の時期、先祖の霊を送り出す頃に吹く風

 

こちらの記事では、夏に吹く風を表現する言葉を、カテゴリに分けてご紹介します。

 

日本の夏を彩る風の記憶を、言葉にしてとどめてみましょう。

 

 

 初夏を告げる光と香りの風

初夏を告げる光と香りの風

 

初夏は、光が輝く時期から始まります。

この時期の風は、まだ春の名残がありつつ、生命力にあふれた力強さをもっています。

1. 薫風(くんぷう)

「薫風南より来たりて、殿閣微涼を生ず」イラスト

 

「薫風は」新緑のあいだを吹き抜け、若葉の香りを運んでくる爽やかな南風を指します。

初夏の代表的な季語としても使われます。

 

緑の美しさと清涼感のある香りを感じる、情緒豊かな表現です。

「薫」という文字が使われているように、新緑の爽やかでみずみずしい香りをともなう風です。

 

2. 爽風(そうふう)・清風(せいふう)

初夏のカラリとした晴天の日に吹く風を指します。

梅雨入り前の、とても過ごしやすい時期の風です。

 

爽風・清風は、心のなかのよどみを洗い流してくれるような清涼感をもっています。

 

3. 風薫る(かぜかおる)

 

「風薫る」は、「薫風」を動詞にして表現した季語です。

俳句では、初夏の季語として、とても重宝されています。

 

風そのものが初夏の色彩と香りをまとっている様子が分かる、秀逸な表現です。

 

命を育む緑の風

命を育む緑の風

 

季節が進むと、樹木が勢いよく葉を広げる時期がやってきます。


その頃、風は木々にちなんだ表現で呼ばれるようになります。

 

4. 青葉風(あおばかぜ)

「青葉風」は、みずみずしい青葉を揺らして吹き渡る風のことです。

 

特に、5月下旬から6月にかけて、木々が深緑へと変わる直前の、鮮やかな緑の中を通り抜ける風を指します。

 

薫風が爽やかな風であるのに対し、青葉風は、より力強く、生命力に溢れた風として描写されます。

 

5. 若葉風(わかばかぜ)

「若葉風」は、春の終わりから初夏にかけて、生まれたばかりの柔らかな若葉のあいだを優しく吹き抜ける風のことです。

 

「青葉風」が力強いイメージであるのに対し、若葉風は、芽吹いたばかりの淡く繊細な新緑を愛でるような、穏やかな響きをもっています。

 

新しい季節の始まりへの祝福を感じさせる表現です。

 

6. 茅花流し(つばなながし)

「茅花流し(つばなながし)」は、初夏から梅雨入り前にかけて吹く、雨の気配を含む湿った南風のことです。

「茅花(つばな)」とはチガヤの穂のことす。この穂が白く光り、風になびく頃に吹くため、こう呼ばれます。

 

茅花流しは梅雨の訪れを告げる風です。

爽やかな初夏が終わり、しっとりした雨の季節へと移り変わる情緒を表現しています。

 

梅雨と南風の情景

梅雨と南風の情景

 

6〜7月頃にかけて、梅雨になると、曇りや雨の日が多くなります。

降り続く雨は世界を静かに包み込むでしょう。
紫陽花が映える美しい季節です。

夏の到来を前にした、この時期特有の風の名前があります。

 

7. 黒南風(くろはえ)

梅雨の始まりから最盛期にかけて、どんより曇った空の下で吹く、湿った南風を「黒南風」といいます。

 

「黒」は、雨雲に覆われた暗い空の色を反映しています。

光をさえぎられた重苦しい空の下で吹く風であることから、「黒」が名についたのでしょう。

 

湿り気を帯び、重くまとわりつく風は、梅雨の頃特有の重厚感があります。

力強くも湿潤な風であるのが伝わるでしょう。

 

8. 白南風(しろはえ/しらはえ)

「白南風」は、梅雨が明け、空が明るくなった頃、光の中で吹く南風のことです。

 

黒南風が、梅雨の暗さ・湿り気を象徴するのに対して、白南風は、梅雨明けの「明るさ・輝き」を象徴します。

雨雲が去り、光があふれる空の下を風が吹き抜けるさまが、「白」として表現されるのでしょう。

 

白南風が吹くと、日本の夏の到来です。

白南風が人々の心に開放感をもたらすでしょう。

 

9. 荒南風(あらまぜ)

「荒南風」は、梅雨明けの気候が安定しない頃に吹く、激しい南風のことです。

海辺で波を荒立てることから、荒南風とされました。

 

これから始まる夏のエネルギーを予感させるような、荒々しい風です。

 

黒南風の湿っぽさ、白南風の爽やかさとは異なります。

荒々しい躍動感と、季節を強く押し進めるパワーを感じさせる言葉です。

 

盛夏の熱気と涼を求める風

盛夏の熱気と涼を求める風

 

本格的な夏が到来すると、風は、「熱」と「涼」の両方の表情を見せるようになります。

 

10. 炎風(えんぷう)

炎風(えんぷう)は、夏の炎のような熱気をはらんだ風のことです。

 

古来、日照りが続く中で吹く炎風は、農作物への影響も懸念される過酷な風でした。

現代では、アスファルトの照り返しとともに、都市部の耐え難い熱風のイメージがあります。

 

11. 涼風(すずかぜ/りょうふう)

 

「涼風」は、夏の暑さの中で、ふとした瞬間に吹き抜ける涼しい風です。

 

夏の厳しい暑さを、いっとき、和らげてくれる、救いのような風を指します。

夕立後の風、木陰に吹く風、水辺の風などがこれに当たるでしょう。

 

12. 晩風(ばんぷう)

「晩風」は、夏の夕暮れ時から夜にかけて吹く風のことです。

 

日中の強烈な熱気が少しずつ引き、入れ替わるように流れ込んでくる穏やかな風を表現しています。

ジリジリとした暑さが和らぎ、「熱」から「涼」へと変わる風です。

 

一日の終わりを告げる落ち着いた響きが含まれます。

 

13. 海風(うみかぜ)と磯風(いそかぜ)

「海風」「磯風」は、日中、海から吹き込む涼しい風のことです。

潮の香りを含みながら、涼を届けてくれる恵みの風です。

 

海の広大さを感じさせる言葉です。

 

水辺の風と夕凪の静寂

水辺の風と夕凪の静寂

夏の水辺に吹く風には、独特の情緒が宿っています。

 

14. 川風(かわかぜ)

 

「川風」は、川面に沿って吹く風のことです。

水面で冷やされた空気には、陸地の熱気とは対照的な冷たさがあります。

 

京都の鴨川などでみられる「納涼床(のうりょうゆか)」は、この川風を楽しむための仕掛けです。

納涼床では、川風の涼しさを享受しながら、川のせせらぎや夏の夜の情景を楽しめます。

 

15. 夕凪(ゆうなぎ)

「夕凪」は風の名前ではありません。しかし、夏の風を語るために欠かせないのが「凪」の状態です。

 

夕凪は、日中の海風と夜間の陸風が切り替わるあいだ、風がぴたりと止まる現象を指します。

この時間帯、世界が静止したかのような神秘的な静寂が訪れます。

 

16. 波間風(なみまかぜ)

「波間風」は、穏やかな海面で、波と波のあいだを漂うように吹く、かすかな風です。

激しい波風ではありません。海面の近くで波を撫でる繊細な動きを表現しています。

 

水面のきらめきをわずかに揺らす程度の風いえるでしょう。

夏の海の儚い美しさを表現できる言葉です。

 

晩夏から秋への予兆:去りゆく夏の風

晩夏から秋への予兆:去りゆく夏の風

 

8月も終わりに近づくと、風の中に、秋へ向かうわずかな変化が混ざり始めます。

 

17. 秋近し(あきちかし)

「秋ちかし」は風そのものの名前ではありませんが、夏の終わりの風の中にふと感じる秋の気配を指す言葉です。

 

日中の日差しは強くても、夕方の風にふと混ざる冷たさ、虫の声をともに流れる乾いた空気に、日本人は秋の気配を感じとってきました。

 

18. 野分(のわき)

「野分」は、立春から数えて210日目の頃に吹く、台風のような強い風のことです。

 

立春から210日目といえば、現代では、9月上旬から中旬の頃でしょう。

 

野の草を分けて吹き荒れることからこの名前がつきました。

「台風」やそれに類する強風を指す、古風な言葉です。

 

夏の終わりを告げ、世界を秋へ向かわせる荒々しい風です。

 

19. 送り風(おくりかぜ)

「送り風」は、お盆の時期、先祖の霊を送り出す頃に吹く風です。

 

この時期を境に、夏の熱狂は影をひそめ、少しずつ秋の寂寥感が漂い始めます。

夏が終わるという実感と、大切な存在を見送る寂しさが重なり合う、とても情緒深い言葉です。

 

風を「聴く」文化と風鈴の音

風を「聴く」文化と風鈴の音

 

日本では、夏の風を目や耳でも感じてきました。

風鈴は、風を目や耳でも楽しめる夏の小道具です。

 

風鈴のチリンという鋭く涼やかな音からは、温度が下がるような気持ちにさせられます。

 

方言に見る夏の風

方言に見る夏の風

 

夏の風は、地域によっても豊かに表現されます。

 

【まぜ(南風)

西日本を中心に使われる言葉です。雨をともなう南風を指します。特に漁師のあいだで重宝されました。

 

【だし(出し風)

陸地から海へ向かって吹き出す強い風です。特に、東北地方などで、特定の地形から吹きおろす夏の強風を指します。

 

【あなまぜ】対馬などで使われる、梅雨明けの強い南風のことです。

方言による風の表現は、その土地と結びついて、独特の重みをもっています。

 

夏の風の記憶

夏の風は、人生の特定の瞬間と結びついた記憶として存在します。

幼い頃に感じた夜風。青年時代に感じた海風。中年期に分かる晩夏の寂寥感。

 

日本人が長く培ってきた夏の風をあらわす言葉の数々を覚えておきましょう。

風の名前を知ることは、私たちが感じる世界を表現する手助けとなることでしょう。