省略法(しょうりゃくほう)とは、文章を途中で切り、あえて言葉を省く表現技法です。
読み手に言外の意や余韻を感じ取らせることが目的です。
- 箱を開けるとそこには…。
「…」の部分が余韻を残すように省略されています。読み手の想像力を刺激し、印象に残ります。
あえて述語を省略してシンプルに訴えることもあります。
- みなさんと、ともに。
「ともに歩こう」「ともに過ごそう」などの意図は伝えつつ、文章を途中で切ることでリズム良く心に残ります。
述語を書いてしまうと限定されてしまうことが、書かずに想像にゆだねることで、読み手に対応したイメージを伝えられます。
そうした省略法だからこそ可能な表現があります。覚えておくととても便利です。
こちらでは、省略法について、意味、効果、注意点などをわかりやすく解説いたします。
目次
【意味】省略法とは
省略法(しょうりゃくほう)とは、文章の一部を省略して、読み手に言外の意や余韻を感じ取らせる表現技法です。
デジタル大辞泉には次の記載があります。[注1]
【デジタル大辞泉】
しょうりゃくほう【省略法】
修辞法の一。章句を簡潔にして、言外の陰影・余韻などを読者に感じ取らせようとする方法。
「花は桜木、人は武士」の類。
ちなみに「花は桜木、人は武士」については次の記載があります。
【デジタル大辞泉】
慣 花(はな)は桜木(さくらぎ)人は武士
花では桜が第一であるように、人では潔い武士が第一であるということ。
ずいぶん省略されているのがわかります。
書かれていない部分を読み手は想像で補うことができるため、省略されていても意味はわかります。
それでいて、文章そのものは簡潔でリズミカルです。
このように、省略法では、読み手が想像で補える部分をあえて省略し、簡潔で覚えやすい文章で伝えることができます。
日常でよく使う省略法も例文で確認してみましょう。
【例文:省略法】
「それって、いったい…」
→最後の言葉を省略することで困惑する気持ちが余韻として残ります。
「まさか◯◯だったとは…」
→言葉を失うような気持ちが印象に残ります。
いよいよ新装開店!
→新装開店しますの「します」を省略して新装開店の印象を強くしています。
このように、省略法には、印象に残るように伝えたり、リズム良く伝えたりと、あえて文章を省くことの効果があります。
[注1]小学館/デジタル大辞泉
省略法の3つの効果
省略法の大きな効果は余韻を残すことです。
さらに、余韻を残すことで得られる具体的な3つの効果を見ていきましょう。
効果1. イメージが広がる
省略法では、読み手に想像の余地を残します。
【例文:省略法】
ドアを開けるとそこは…。
「…」の部分には、読者の想像の余地があります。そこは一面の銀世界かもしれないし、眼前に海が広がっているかもしれません。
言葉にしないことで読み手の想像力を高め、印象を残す効果が期待できます。
また、省略して想像にゆだねることで、より多くの意味を伝えることもできます。
例文で確認してみましょう。
【例文:省略法】
未来を みなさんとともに。
省略されている言葉は、「歩む」「築く」「過ごす」「戦う」「掴む」など、複数考えられます。
述語を省略して読み手の想像にゆだねることにより、一つのメッセージで幾通りもの意味を伝えられます。
複数のペルソナに訴えたいときに有効です。
効果2. 少ない文字数で頭に入りやすい
省略法では言葉を省くため、文字数が少なくなります。
文字数が少ないほうが、書いてある事柄がスッと頭に入ります。記憶にも残りやすいです。
例文で確認してみましょう。
【例文:文字数が多い場合と省略した場合】
通常の文章:この本はフランス語の基本の決まりを確認するための教材です
↓省略
省略法の文章:フランス語の「約束ごと」を網羅!
省略法を使った文章のほうが、情報が頭に入りやすいのがわかります。
宣伝文などは、ちょっと目にしてすぐ伝わるほうが読み手に親切です。省略法が使えないか考えてみるといいですね。
効果3. 記憶に残る
短い言葉は鮮烈に記憶に残ることがあります。
たとえば、「ファイト一発!」という言葉は誰もが聞けばわかるぐらいに記憶されています。
キャッチコピーや本のタイトルなどは、短くリズムの良い文章で記憶に残る必要があります。
そこで省略法が使われているのを目にします。
【例文:省略法を使ったキャッチコピー】
高機能。なのに小さい。
すっと頭に入って、記憶に残るキャッチコピーです。
「この機械は高機能なのに小さいです」という文章よりも、省略したほうが記憶に残ります。
あえて削ぎ落とした言葉には記憶に残る効果があります。
【例文】省略法を使った表現方法
省略法は、文章の一部を省略する表現技法です。
具体的に、述語の省略と助動詞の省略についてご説明します。
述語を省略:イメージが広がる
文末の述語を省略します。
最後のキーワードを省略し、読み手の想像力に委ねることで、イメージが広がります。
例文で確認してみましょう。
【例文:述語の省略】
記念日を最高の画質で。
まるで異世界の体験を。
さらなる高みへ。
あらゆるシーンに。
作業をあっという間に。
例文では、述語の「撮影する・しよう」「提供する」「行こう」「対応する」「完了させる」などが省略されていると考えられます。
文章を切ることで印象を残し、最後の言葉(述語)を読み手の想像力に委ねています。
想像することにより、読み手の立場によって、異なるイメージをふくらませることもできます。
たとえば、「記念日を最高の画質で」ということであれば、結婚準備中の方であれば結婚式の撮影を思い浮かべるかもしれません。お子さんがいる方であればお子さんの誕生日や入学式を思い浮かべるかもしれません。
述語の省略には、読み手の想像力をふくらませる効果が期待できます。
助動詞を省略:強調できる
助動詞は、「歩きます」の「〜ます」など、用言や体言に付属する言葉です。
【助動詞の例】
です ます ない らしいたい だ
これらの助動詞を省くことにより、伝えたいことがより強調されて伝わり、印象に残ります。
例文で確認してみましょう。
【例文:助動詞の省略】
冬のアフタヌーンティープランが新登場!
最高レベルのディスプレイ。
あらゆるニーズにピッタリ。
世界でただ一つの作品。
「冬のアフタヌーンティープランが登場しました」でも、意味は伝わります。しかし、強調したい、印象的にしたい、ということなら、省略法を使ってみましょう。すっきりして伝わりやすくなります。
助動詞の省略には、強調する効果が期待できます。
【注意】省略法が適さない2つの場合
省略法を使うのが適さないこともあります。
省略法が適さないのは次の場合です。
- 省略すると文章の意味がわからなくなる
- 省略すると文章が丁寧でなくなる
文章の意味がわからなくなる
文章の意味がわからない、曖昧である、となると、省略法を使うメリットはありません。
そうした場合には、省略せずに最後まで言い切りましょう。
【例文:省略すると意味がわからない文章】
その先の未来に。
言葉があるだけで。
本当に。確実に。
ちょうどいいプランを。
例文は、想像で補おうにも、曖昧すぎていったい何のことなのかわかりません。
このように極端な省略は避けたほうが良いでしょう。
「ちょうどいいプランを」であれば、「ちょうどいいプランを見つけよう」と、語尾までしっかり書かれているほうが親切です。
文章が丁寧でなくなる
また、省略すると文章が丁寧でなくなってしまう場合もあります。
例文で確認してみましょう。
【例文:省略すると丁寧ではなくなる文章】
プロの味をご家庭で堪能。
何回でも購入可能。
あらゆる場面に適応。
例文は、読み手に対し、どこか丁寧さに欠け、メモ書きのようなぞんざいな印象を受けます。
こうなると、あえて省略するメリットがありません。
「プロの味をご家庭で堪能」であれば、「プロの味をご家庭でも」で切るほうが良いでしょう。あるいは、「プロの味をご家庭でもお楽しみいただけます」としたほうが丁寧な印象になります。
省略法を使うことで「意味が曖昧になる」「丁寧でなくなる」ことのないよう注意しましょう。
詩の省略法
省略法は詩の技法としても使えます。
言葉を省くことで詩に余韻が残ります。
【例文:詩の省略法】
花が咲く 真紅の花が
【例文:詩の省略法】
立ち上がり 東へ
省略された言葉を想像させることで味わいや余韻を残します。
英語の省略
英語でも省略はよく使われます。
表現技法というよりは、重複を避けるためであったり、慣用的な省略であったりすることが多いようです。
【例文:英語の省略】
重複を避けるための省略
I prefer white to red(wine).
慣用的な省略
(it was)Nice talking to you.
簡潔な表現のための省略もあります。
【例文:表現を簡潔にするための省略】
No smoking (allowed here).
注意喚起やお知らせなどで使われているのを目にします。
省略法で印象に残る文章を
省略法を適切に使うと印象に残る文章を作成できます。
注意が必要なのは、言葉を省略しても意味がわかること、丁寧さをなくさないことです。
省略法で記憶に残るキャッチコピーを作ってみるのも楽しいでしょう。言葉を扱う面白さを感じられます。