編集長の記事、とても良かったです。
「他山の石」といたします。
その「他山の石」、使い方が間違っています!
「他山の石」とは「他人の誤った言行も、自分の行いの参考にできる」ことのたとえです。
他の人の良い行いを手本とするときに使うのは間違いです。
「他山の石」の意味、使い方、類語、間違い例、「対岸の火事」との違いをご説明します。
目次
「他山の石(たざんのいし)」の意味
「他山の石」とは、「自分の行いの参考となる、他人の誤った言行」のことです。
誰かの悪い行いを見て、これを教訓として自分の行いを慎もう、というときに使います。
デジタル大辞泉には次の記載があります。
他山の石
よその山から出た、つまらない石。転じて、自分の修養の助けとなる他人の誤った言行。
「他社の不祥事を他山の石として会計の透明化をはかる」
→他山の石を以て玉を攻むべし
[補説]質の悪い石でも玉を磨くのに役立つということから。
[引用]小学館「デジタル大辞泉」
「他山の石」は、もとは、中国の「詩経」からの言葉です。
「よその山から出たつまらない粗悪な石でも、自分の玉を磨くのに利用できる」ことから、他人の悪い言行も、自分の言行のための参考にできるという比喩で使われるようになりました。
つまり「他山の石」は、「他人の悪い言行」を意味するため、良い手本にするという意味で使うことはできません。
「他山の石」の由来
「他山の石」の出典は、中国の「詩経」にあります。
詩経 小雅・鶴鳴
他山之石可以攻玉
(意味)よその山から出た粗悪な石でも、自分の玉を磨くのに役立てられる。
「詩経」の小雅・鶴鳴に、「他山の石以て(もって)玉を攻(おさ)むべし」という言葉があります。
「よその山から出た粗悪な石でも、自分の玉を磨くのに役立てられる」という意味です。
「他山の石(たざんのいし)」の使い方:例文
「他山の石」は、「他山の石とする」という言い回しでよく使われます。
「他山の石」の使い方を例文で確認しましょう。
【例文:「他山の石」】
◯◯社の失敗事例を他山の石として、今後のプロジェクトに取り組もう。
他人の失敗を知ってもどうすることもできないものです。
教訓として生かそうというときに、「他山の石とする」を使います。
【例文:「他山の石」】
彼女の言動は残念だったが、他山の石とするしかない。
思いやりのない残念な言動をする人や、故意に人を傷つける言動をする人もいます。
そういう残念な振る舞いをしないよう、教訓とするしかない場合に、「他山の石とする」を使います。
【例文:「他山の石」】
彼は早く対処すれば間に合ったのに。他山の石としましょう。
早く対処すれば小さな被害で済んだことが、対処が遅れたばかりに被害が大きくなってしまうことがあります。
そういう事態を目の当たりにした場合などに、自分の教訓とするために他山の石とするのがよいでしょう。
「他山の石」を自分の良い手本として使わない
「他山の石」は良い意味では使われません。
他人の悪い言行や失敗などを自分の今後の参考にする場合に使います。
そのため、目上の人に向かって使うのは非常に失礼です。
上司や取引先に対して「他山の石」を使うことのないよう気をつけましょう。
「他山の石とする」は「良い手本とする」という意味では使えません。
わかりました。
例文で確認します。
【例文:「他山の石」は良い意味では使えない】
✕ 「課長の手法を他山の石として、自分の仕事のやり方を見直します」
✕ 「先方のアドバイスを他山の石として、プロジェクトの進行に役立てます」
✕ 「先生の論文を他山の石として、論文作成に励みます」
上記はどれも「他山の石」の間違った使い方です。
「他山の石」を良い手本として使うのは間違いです。
また、目上の人の行いに対して使うのは失礼になってしまいます。くれぐれも注意しましょう。
「他山の石(たざんのいし)」の類語
「他山の石」の類語表現をご紹介します。
- 「人のふり見て我がふり直せ」
- 「反面教師」
- 「人を以て鏡と為す」
詳しく見ていきましょう。
「人のふり見て我がふり直せ」
「人のふり見て我がふり直せ」はことわざです。
「他人の行いを見て、我が身を振り返り、改めるべきところを改めよ」という意味があります。
【例文:「人のふり見て我がふり直せ」】
人のふり見て我がふり直せ、競合店のサービスを研究しましょう。
人のふり見て我がふり直せという言葉のように、ライバルから学ぼうではないか。
人の批判ばかりしていないで、人のふり見て我がふり直せ、ですよ。
「反面教師」
「反面教師」とは「悪い面の見本で、それを見ている人にとっては反省材料として役立ってくれるような事例や人」のことです。
悪い見本の先生ということですね。
「反面教師」の由来は毛沢東の「反面教員」にあります。
毛沢東は、1957年の演説で、組織内の誤った人物に対して「反面教員」という言葉を使いました。
毛沢東は、反面教員を排除せず、反面(誤った道)を見せることで、人々を正しい方向に導くという考えを述べました。
【例文:「反面教師」】
部活の顧問は練習中に野次を飛ばしてばかりいて、あれでは反面教師です。
酒とギャンブルで妻に逃げられた先輩を反面教師としよう。
毎日遅刻してくる先輩がいて、反面教師とするしかないです。
「人を以て鏡と為す」
「人を以て鏡と為す」の読み方は「ひとをもってかがみとなす」です。
意味は「他人の言動を自分に当てはめて考え、間違った生き方をしないように慎むこと」です。
中国、唐の太宗が、名臣魏徴が亡くなったときに「鏡(手本とすべき人)を失った」と嘆いたことに由来します。
【例文:人を以て鏡と為す】
人を以て鏡と為すことで成長できる。
これからは人を以て鏡を為すようにしなければならない。
彼は、人を以て鏡と為すことで、素晴らしい人物になれた。
「他山の石」と「対岸の火事」は意味が違う
「他山の石」と同じ意味だと思われやすい言葉に「対岸の火事」があります。
言い回しが似ているためかもしれません。
しかし、「他山の石」と「対岸の火事」の意味は違います。
- 「対岸の火事」:自分には無関係で、なんの苦痛もないこと。
↑「他山の石」とはずいぶん意味が違います。
「向こう岸の火事は、こちらの岸に飛び火する心配がない」ことから、「他人にとって重大な苦痛であっても、自分には無関係で苦痛がないこと」を表します。
「他山の石」が、他人の悪い言行を自分の参考とするのとは、随分、意味が違います。
「他山の石」の本来の意味を理解しているのは約30%
「他山の石」の本来の意味は、「自分の行いの参考となる、他人の誤った言行」のことです。[注1]
しかし、この意味を正しく理解している人は30.8%しかいないという調査結果があります。[注2]
平成25年度の「国語に関する世論調査」では、「他山の石」を本来の意味で選んだ人が30.8%でした。
【他山の石】
平成25年度 | 平成16年度 | |
①他人の誤った言行も自分の行いの参考となる | 30.8% | 26.8% |
②他人の良い言行は自分の行いの手本となる | 22.6% | 18.1% |
①②両方の意味 | 4.5% | 5.5% |
①②とは全く別の意味 | 6.2% | 22.4% |
分からない | 35.9% | 27.2% |
本来の意味で理解している人が約30%しかいないようです。
[注1]文化庁/文化庁月報/連載「言葉のQ&A」/「他山の石」の意味
[注2]平成25年度「国語に関する世論調査」の結果の概要[pdf]
「他山の石(たざんのいし)」は適切に使おう
「他山の石」は、「他人の誤った言行を悪い教訓として、自分の行動に役立てよう」というときに使います。
誰かの大きな誤ちなどを見て、自分はああならないようにしようと思うときなどに、「他山の石とする」を使います。
くれぐれも、良い手本となる言行に対して「他山の石」を使わないようにしましょう。