ビジネスメールなどで頻繁に登場する「させていただく」「させていただきます」という表現ですが、次のように感じることも少なくありません。
「なんだかおかしいな」
「本当に敬語として正しいのかな」
させていただくは、させてもらうの謙譲語であるため、正しい敬語の一つです。
ただし、誤用も多く見られる言葉です。
「させていただく症候群」などと揶揄されることもあります。
こちらでは、「させていただく」の、適切な言い換え、誤用、正しい使い方、をご説明いたします。
「させていただく」を過剰に使わないためにも、こちらで確認してみてください。
目次
【言い換え】「させていただく」→「いたします」
「させていただく」は誤用の多い表現です。
「させていただく症候群」という言葉もあるほどです。
「させていただく症候群」とは、「言葉を丁寧にしようと思うあまり、『させていただく』を必要以上に使ってしまうこと」を指します。
「させていただく」の誤用や正しい使い方について、詳しくは後述いたします。
まずは、「させていただく」を使ってよいのか迷う場合に、適切な言い換え表現をご紹介します。
いたします
「させていただく」を言い換えるなら、「いたします」がよいでしょう。「いたします」は「する」の謙譲語です。
すっきりしていながら、丁寧でもあります。
「させていただく」の言い換え例文
それでは、「させていただく」を「いたします」に直したほうがよいのはどんなときなのか、どんなふうに言い換えられるのか、例文で確認しましょう。
【例文:「させていだだく」の言い換え】
✕ 退任を決意させていただきました。
↓言い換え
◯ 退任を決意いたしました。
【例文:「させていだだく」の言い換え】
✕ 心から感謝させていただきます。
↓言い換え
◯ 心から感謝いたします。
【例文:「させていだだく」の言い換え】
✕ お言葉に感動させていただきました。
↓言い換え
◯ お言葉に感動いたしました。
【例文:「させていだだく」の言い換え】
✕ その件については、本当に後悔させていただきました。
↓言い換え
◯ その件については、本当に後悔いたしました。
「させていただく」は「させてもらう」の謙譲語
職場や接客の場でよく耳にするのが「させていただく」という表現です。
【例文:させていただく】
明日は遅れて出社させていただきます。
例文は正しい表現です。
「させていただく」「させていただきます」「させていただきました」「させていただいております」これらはすべて、「させてもらう」の謙譲語です。
「相手の許可を得て行い、そのことで恩恵を受ける」場合に使える謙譲表現です。
ところが、上記の2つにあてはまらなくても、とにかく丁寧な感じ、へりくだった感じを出そうと、不適切に使用しがちなのがこの「させていただく」です。
【例文:させていただくの誤用】
田中は本日はお休みをとらさせていただいております。
↓改善例
田中は本日は休んでおります。
例文は、電話の相手先に、自社の社員が休んでいることを伝える表現です。
相手先の方に休みの許可をいただいているわけではないため、「させていただく」をこの場面で使うのは適切ではありません。
なんとなく丁寧な気がして使ってしまう「させていただく」ですが、不適切に使われていると違和感を覚えます。また、まわりくどく感じられたり、慇懃無礼にもとられかねません。
丁寧に言いたいというその気持ちは悪いことではありませんが、誤用は避けたほうが無難です。
「させていただく」は、相手の許可が必要で、そのことで恩恵があるときにだけ、使いましょう。
【正しい使い方】させていただく
それでは、「させていただく」の正しい使い方を、わかりやすくご説明いたします。
許可を得て恩恵を受ける場合に使用する
「させていただく」は、「させてもらう」の謙譲表現です。
ただし、「相手の許可を得て行い、そのことで恩恵を受ける」ときにのみ、使える謙譲表現です。
文化庁の発表している「敬語の指針」によると、次の記載があります。[注1]
【文化庁/敬語の指針/「させていただく」の使い方の問題】
【解説1】 「 お・ご)……(さ)せて( いただく」といった敬語の形式は,基本的には,自分 側が行うことを,ア)相手側又は第三者の許可を受けて行い,イ)そのことで恩恵を 受けるという事実や気持ちのある場合に使われる。したがって,ア ,イ)の条件を ) どの程度満たすかによって 「発表させていた , , だく」など 「…(さ)せていただく」を 用いた表現には,適切な場合と,余り適切だとは言えない場合とがある。
つまり、「させていただく」は、次の2つの条件を満たす場合に使われるとあります。
- ア)相手側又は第三者の許可を受けて行い
- イ)そのことで恩恵を 受けるという事実や気持ちのある場合
条件を満たさない場面で「させていただく」を使用してしまうと、どこか違和感を覚えるものです。
それでは、例文を見ながら、正しい使い方を確認していきましょう。
[注1]文化庁/敬語の指針/p40「させていただく」の使い方の問題[pdf]
「させていただく」の正しい例文
それでは、「させていただく」の正しい使い方を例文で確認しましょう。
どのような場面で使えばよいのか、すっきり理解してしまいましょう。
【例文:「させていただく」の正しい使用】
提出された書類の確認させていただきます。
例文では、相手から許可を得て書類確認をする状況があり、さらに書類確認をすることで不備などをチェックできる恩恵を受けられます。
つまり、「相手の許可を得て行い、そのことで恩恵を受ける」条件にあてはまっています。
もう一つ、見てみましょう。
【例文:「させていただく」の正しい使用例】
体調不良が考慮され、別の日にテストを受けさせていただきました。
この例文では、本来の日程とは違う日に許可を得てテストを受けさせてもらい、さらにテストを受けられるという恩恵を受けています。
こちらも、「相手の許可を得て行い、そのことで恩恵を受ける」条件にあてはまっています。
それでは、もう一つ、見てみましょう。
【例文:「させていただく」の正しい使用例】
提出期限を、◯月◯日に設定させていただいております。
この例文では、許可を得て期限の変更を行い、そのことで都合がよくなるという恩恵を受けています。
こちらも、「相手の許可を得て行い、そのことで恩恵を受ける」条件にあてはまっていますね。
「させていただく」の使用に迷ったら、この「許可と恩恵」について当てはまるかどうかを考えてみましょう。
「当てはまらない」「当てはまる確信はない」という場合には、「いたします」など、違う敬語を使います。そちらについては次でご説明いたします。
【誤用】させていただく
「させていただく」の正しい使い方を確認していただいたところで、ありがちな間違いをチェックしましょう。
条件に当てはまらない
「させていただく」は、「相手の許可を得て行い、そのことで恩恵を受ける」場合に使用できます。
その条件に当てはまらない状況で使用すると、どうしても違和感が生じてしまいます。
【例文:「させていただく」の間違った使い方】
✕ 山田は、本日は休ませていただいております。
↓改善例
◯ 山田は、本日は休んでおります。
◯ 山田は、本日、休みを取っております。
例文は、社外の人に対して、社員の欠席を知らせる言葉です。
休みは社外の人の許可を得るものではなく、本人が取るものであるため、改善例のように「休んでおります」「休みを取っております」が正しい表現です。
【例文:「させていただく」の間違った使い方】
✕ 申し訳ありません。反省させていただきました。
✕ 申し訳ありません。反省させていただいております。
↓改善例
◯ 申し訳ありません。反省いたしました。
◯ 申し訳ありません。反省いたしております。
反省は、自発的にするものであり、相手の許可を得て行うものではありません。
とくに、このような言葉を使う場面は、相手が怒っていることも考えられるため、間違った言葉遣いでは、火に油を注いてしまうかもしれません。「反省いたしました」「反省いたしております」と、すっきり伝えましょう。
二重敬語
「させていただく」にさらに敬語を重ねた表現も使ってしまいがちです。
二重敬語は間違った表現です。こちらで確認しておきましょう。
【例文:「させていただく」の間違った使い方】
✕ いただいた資料を、拝見させていただきます。
↓改善例
◯ いただいた資料を、拝見します。
「拝見する」は「見る」の謙譲語です。「させていただきます」も謙譲語であるため、両方使うと二重敬語になってしまいます。
改善例のように、「拝見します」としたほうが、正しくすっきり伝わります。
もう一つ見てみましょう。
【例文:「させていただく」の間違った使い方】
✕ ありがたく頂戴させていただきます。
↓ 改善例
◯ ありがたく頂戴します。
「頂戴する」は「もらう」の謙譲語です。「頂戴」と「させていただきます」を両方使うと、二重敬語になってしまいます。
こちらも、改善例のように「頂戴します」とすっきり伝えましょう。
記事ブログ内に、謙譲語について私がまとめた記事があります。謙譲語はへりくだって相手を高める敬語表現です。わかりやすく解説してあるため、謙譲語について確認したい方は、こちらもご覧くださいね↓
冗長表現である
「させていただく」を使うことで冗長表現になってしまう場合も、使用を避けたほうがよいでしょう。
冗長表現とは、不必要な語句が入った表現のことで、回りくどく伝わりづらいものです。
【例文:「させていただく」の間違った使い方】
✕ 3日〜5日まで、休業させていただきます。
↓改善例
◯ 3日〜5日まで、休業いたします。
相手先の許可を得て休業するわけでなければ、「休業いたします」で十分に丁寧な表現です。
もう一つ、冗長表現を見てみましょう。
【例文:「させていただく」の間違った使い方】
✕ 私は、◯◯◯◯年に、スタンフォード大学を卒業させていただきました。
↓改善例
◯ 私は、◯◯◯◯年に、スタンフォード大学を卒業いたしました。
◯ 私は、◯◯◯◯年に、スタンフォード大学を卒業しました。
話の相手側の許可を得て卒業しているわけではないので、「卒業させていただきました」は違和感があり、まわりくどい表現です。
ただし、話の相手が教授で、「その教授が特別に許可してくれたおかげで」卒業できたのであれば、正しい表現ではあります。でも、実際には、そのような状況は多くはないでしょう。
慇懃無礼かもしれない?
一見、「させていただく」の正しい使い方のようでも、考えようによっては失礼になることもあります。
【例文:「させていただく」の不確かな使い方】
✕ そろそろ、失礼させていただきます。
↓改善例
◯ そろそろ、失礼いたします。
「させていただく」は、基本的に「相手の許可を得て行い、そのことで恩恵を受ける」場合に使われます。
そう考えると、「そろそろ、失礼させていただきます」は、「相手のもとを立ち去ることが自分にとって恩恵である」と言ってしまっているともいえます。
相手のもとから立ち去ることで、次の用事に向かえるなどの恩恵はあるので、それに対して使うのなら間違いではありません。
しかし、相手のもとを立ち去れることが恩恵だと言ってしまっていると考えると、とても失礼になってしまいます…
このあたりの許容範囲は、人それぞれの難しいところではあります。
判断に迷うときは、「いたします」を使うほうがよいでしょう。
【漢字はNG】「させて頂く」ではなく「させていただく」
「させて頂く」「させて頂きます」は、「させていただく」「させていただきます」と、ひらがなで書きましょう。
「頂く」は、「もらう」の謙譲語です。「もらう」という意味で使うのであれば、漢字でもひらがなでも問題ありません。
しかし、「させていただく」の「いただく」は、補助動詞です。補助動詞は、「いただく」と、ひらがなで書くことが推奨されます。
【例文:「頂く」と「いただく」】
◯お酒を頂く
◯お土産を頂く
◯スケジュールを変更させていただく
◯担当させていただく
動詞本来の意味で使うなら「頂く」、補助動詞として使うなら「いただく」と覚えておきましょう。
「させていただく」の英語表現は「Let me 〜」
「させていただく」にあたる英語表現もあります。
「Let me 〜」は、相手の許可を得る意味合いがあります。ここにPleaseをつけると丁寧な表現になります。
【例文:英語の「させていただきます」は「Let me 〜」】
Please let me start by introducing myself.
(まず自己紹介から始めさせていただきます)
もう一つチェックしてみましょう。
【例文:英語の「させていただきます」は「Let me 〜」】
please let me confirm that again.
(そのことについて、もう一度、確認させていただきます)
「Let me 〜」は、「〜させてください」という意味ですが、少し丁寧な言い回しにすることで、「〜させていただきます」というニュアンスで使えます。
いつもと違う表現をしたいときなど、「Let me」を使ってみてはいかがでしょう。
「させていただく」を使いこなす
「させていただく」「させていただきます」「させていただきました」「させていただいております」は、どれも、会話やビジネスメールでよく使われる表現です。
こちらの記事でご紹介したように、「相手の許可を得て行い、そのことで恩恵を受ける」条件に当てはまる場合に使うのがよいでしょう。
ただし、条件に当てはまると判断するかは、個人の許容範囲の違いもあり、「させていただく」の使用域が広くなっているのも確かです。
迷う場合には、「いたします」と言い換え、すっきりとさせましょう。
それでも、「うっかり間違った使い方をしてしまった!」なんてことは、誰にでもあることです。日本語はそれほどまでに難しいのです。地道に確認していきしょう。