尊敬語は敬語の一つです。
相手(または話題の主)の動作や状態を言い表すときに、尊敬語を使って敬う気持ちを表現します。
- お菓子を召し上がりますか?
- 王様がお目覚めになる。
尊敬語を使うと、自然な敬意を表せるため、好印象です。
ただし、過剰に使うと慇懃無礼と思われたり、使うべき場で使えないと失礼になってしまったりと、少々難しいのが尊敬語です。
こちらでは、尊敬語の3つのパターンと、紛らわしい謙譲語との違い、避けたい二重敬語について解説いたします。
目次
【尊敬語とは】相手の動作を高めて敬う表現
尊敬語は、敬語の一つです。
敬う相手の動作や状態を高める言葉で、敬意を表現できます。
文化庁が発表している「敬語の指針」には、次の記載があります。
【参考元:文化庁/敬語の指針】
尊敬語(「いらっしゃる・おっしゃる」型)
相手側又は第三者の行為・ものごと・状態などについて、その人物を立てて述べるもの。
〈該当例〉
[行為等(動詞,及び動作性の名詞 )]
いらっしゃる,おっしゃる,なさる,召し上がる お使いになる,御利用になる,読まれる,始められる お導き,御出席 (立てるべき人物からの)御説明
[ものごと等(名詞)]
お名前,御住所 (立てるべき人物からの)お手紙 ,
[状態等(形容詞など) ]
お忙しい,御立派
尊敬語は、対象の人物の行為を高めて述べる言葉です。
たとえば、「先生が言った」ではなく、「先生がおっしゃった」と言うことで、先生を敬っていることを表現できます。
会話の相手に尊敬語を使えば、自然に敬意を表すこともできます。
【例文:尊敬語】
こちらは、あなたが書かれた文章ですか?
この旋律をお聞きになったことはありますか?
どうぞ、召し上がってください。
言葉の端々には思いがこもるものです。相手に抱いている敬意を、尊敬語を使って自然に表せば、コミュニケーションもスムーズになります。
尊敬語の使い方を覚えて、敬う気持ちを言葉にこめてみましょう。
尊敬語を使う状況
尊敬語は、次の状況で使えます。
- 対象の人物を心から敬っている場合
- 対象の人物を尊重した物言いが必要な場合
- 対象の人物に距離を置いて話したい場合
心から敬っている場合は、尊敬語の使用が自然にできますね。
敬意を表したい場合のほかに、相手と距離を置きたいときにも尊敬語は使えます。尊敬語を使ってかしこまった話し方をすれば、必要以上にフランクになることはありません。
必要に応じて尊敬語を使用してみましょう。
【尊敬語の3種類】一般形・特定形・接頭語
尊敬語には大きく3つの種類があります。
- 一般形:基本の形に「お〜になる」などをつける
- 特定形:特定の形に言い換える:「いらっしゃる」「おっしゃる」
- 名詞の尊敬語:接頭語「お」「ご」などをつける
文化庁の敬語の指針にも次の記載があります。[注1]
【参考元:文化庁/敬語の指針】
動詞の尊敬語の形
「行く→いらっしゃる」のように特定の語形(特定形)による場合と、「お(ご)…になる」(例,読む→お読みになる,利用する→御利用になる)のように広くいろいろな語に適用できる一般的な語形(一般形)を使う場合とがある。
それでは、一つひとつ、詳しく見ていきましょう。
[注1]【参考元】文化庁/敬語の指針/P14尊敬語[pdf]
一般形:「お(ご)〜になる」など
基本の語形に「お(ご)〜になる」などをつけるのが一般形の尊敬語です。
- 社長が読む→社長がお読みになる
「読む」に「お(ご)〜になる」をつけることで、尊敬語になります。
このように、基本の語形に特定の言葉をつけたすのが尊敬語の一般形です。
一般形のおもな作り方を表で確認しましょう。
【尊敬語・一般形】
尊敬語・一般形 | 例 |
お(ご)〜になる | お聞きになる お読みになる |
お(ご)〜だ(です) | お食べだ お食べです |
〜なさる | 書きなさる 呼びなさる |
〜ていらっしゃる | 美しくていらっしゃる |
お〜ください | お読みください |
れる られる される | 書かれる 乗られる |
「先生が書きます」を 、「先生がお書きになります」と尊敬語を使って話すと、先生を敬う気持ちを言葉で表せます。
特定形:「いらっしゃる」「おっしゃる」など
特定形の尊敬語は、基本形に何かつけたす一般形とは異なり、尊敬語ならではの特定の言葉を使います。「言う」を特定形の尊敬語にすると、「おっしゃる」になります。
おもな特定形を表で確認しましょう。
【尊敬語・特定形】
基本形 | 特定形・尊敬語 |
言う | おっしゃる |
食べる
飲む |
召し上がる |
見る | ご覧になる |
来る | いらっしゃる
見える おいでになる |
知っている | ご存知 |
する | なさる |
「部長が言った」と言うよりも、「部長がおっしゃった」と話した方が、尊敬の意がこもって丁寧な印象になります。
「召し上がる」「ご覧になる」など、自然に使えるようになるとよいでしょう。
名詞の尊敬語:接頭語「お」「ご」などをつける
「お名前」などのように、敬う対象の物に「お」や「ご」をつけて尊敬語にすることもあります。
「先生のご本を貸していただく」のように、尊敬する先生の「本」に「ご」をつけて、尊敬を表します。
また、「貴社」のように敬う意味のある漢字をつけることもあります。
接頭語 | 例 |
お | お手紙 お宅 |
ご | ご一同 ご意見 ご両親 |
貴 | 貴社 貴殿 貴校 |
芳 | 芳名 芳恩 |
令 | 令息 令嬢 |
尊 | 尊名 尊父 尊顔 |
高 | 高名 |
例文で見てみましょう。
【例文:名詞の尊敬語】
あなたのお名前を教えてください。
ご住所をお知らせください。
貴社を志望した理由は…
かねてから、ご高名は伺っております。
謙譲語でも名詞に「お(ご)」をつける場合があります。混同しやすいのですっきりさせておきましょう。
- A 私から先生へのお手紙 ← 謙譲語
- B 先生から私へのお手紙 ← 尊敬語
Aでは、手紙は自分の物なので、謙譲語。Bは、手紙は敬う対象である先生の物なので、尊敬語です。
【敬語変換表】尊敬語・謙譲語・丁寧語:「言う」「 聞く」「来る」「帰る」など
敬語は、尊敬語・謙譲語・丁寧語など、種類があるため、ややこしいと感じることもあります。
おもな敬語を表で確認してみてください。
【敬語変換表】
基本形 | 尊敬語 | 謙譲語 | 丁寧語 |
目的 | 相手を高める | 自分がへりくだる | 丁寧に述べる |
動作の主 | 相手 | 自分 | 適宜 |
来る | いらっしゃる
おいでになる みえる おこしになる |
伺う
参る
|
来ます |
帰る | お帰りになる
帰られる |
おいとまする | 帰ります |
言う | おっしゃる
言われる |
申す
申し上げる |
言います |
聞く | お聞きになる | 拝聴する
うかがう |
聞きます |
もらう | お受け取りになる | 頂戴する
拝受する いただく |
もらいます |
尊敬語と謙譲語の見分け方
尊敬語と謙譲語の見分け方が紛らわしいこともあります。
尊敬語と謙譲語の大きな違いは、その行為の主が自分側か相手側かということです。
- 尊敬語: 相手側の行為を高めて述べる言葉
- 謙譲語: 自分側の行為を低めて相手を高める言葉
尊敬語と謙譲語を簡単に見分ける方法をご紹介します。
見分けたい言葉の主語を「私は」にしてみましょう。
「私は」を主語にして文章が成り立てば、それは尊敬語ではありません。謙譲語です。
尊敬語は、相手側の行為を高める表現です。「私は」を主語にしては文章が成り立ちません。
例文で確認してみましょう。
【例文:尊敬語と謙譲語の見分け方】
私は 先生から 話を お聞きになる。
↑「私は」で文章が成り立たないので、「お聞きにになる」は尊敬語
【例文:尊敬語と謙譲語の見分け方】
私は 先生から 話を 伺う。
↑「私は」で文章が成り立つので、「伺う」は謙譲語
例文の「お聞きになる」は尊敬語です。「私はお聞きになる」というのは、いかにもおかしな文章ですね。「私は」を主語にしてして成り立たない敬語は、尊敬語です。
- 尊敬語: 主語が相手側 (「私は」を主語にして文章が成り立たない)
- 謙譲語: 主語が自分側 (「私は」を主語にして文章が成り立つ)
上記の2点を簡単に覚えておきましょう。
たとえば、「お帰りになる」は尊敬語かな?謙譲語かな?と迷ったときには、「私は」を主語にした文章を思い浮かべてみます。
「私はお帰りになる」
…文章が成り立ちません。つまり、相手側の動作に使うべき尊敬語であることがわかります。
「先生がお帰りになる」であれば、文章が成り立ちますね。
謙譲語について、記事ブログ内に私が詳しく解説した記事があります。謙譲語は自分の行為をへりくだって述べることにより、相手を高めて敬う表現です。謙譲語についても知っておきたい方は、こちらの記事も、ぜひ、ご覧くださいね↓
二重敬語はやめよう:お召し上がりになられる
二重敬語は、敬語を重ねて使う表現です。
たとえば、「お召し上がりになられましたか?」は、「召し上がる」と「られる」の両方が尊敬語で、二重敬語です。
この場合、「召し上がりましたか?」「食べられましたか?」が正しい尊敬語の使い方です。正しい使い方のほうがすっきりしていますね。
よくある尊敬語の二重敬語
「お(ご)〜になる」+「られる」という二重敬語を使わないように気をつけましょう。
「お(ご)〜になる」も、「られる」も、どちらも尊敬語です。尊敬語を重ねて使うと二重敬語となり、慇懃無礼な印象を与えてしまいます。
よくある尊敬語の二重敬語をご紹介します。
【例文:尊敬語の二重敬語】
✕ お召し上がりになられる
↓
◯ 召し上がる
✕ おっしゃられた
↓
◯ おっしゃった
✕ お見えになられる
↓
◯ お見えになる
✕ お帰りになられました
↓
◯ お帰りになりました
どれもなんとなく耳にすることがあるのではないでしょうか。急いで話すときなど、二重敬語にならないように気をつけましょう。
尊敬語を使って好印象に
尊敬語は、相手を敬う気持ちや、大切に思う気持ちを、自然に言葉に込めることができます。
ビジネスの場や目上の方とのやりとりはもちろん、大切に思う方にも、尊敬語を使ってみましょう。
相手を高めて敬うだけではなく、大切に思う気持ちも伝わるでしょう。言葉を丁寧に使うことで、印象もよくなり、コミュニケーションもスムーズになります。