倒置法は、文章の語順をあえて通常とは逆にして、印象を強める表現技法です。
言い回しの工夫によって感情に訴えるレトリック(修辞技法)の一つです。
通常: 「どこまでも行こう」
↓
倒置法:「行こう、どこまでも」
通常の語順であれば単調な文章が、倒置法を使うことで印象的になります。
あえて文章の流れを乱し、強調したい部分を読み手に印象づける効果があります。
文学的な表現、情緒的な表現にとても適しているでしょう。
しかし、倒置法を使うなら、注意も必要です。
論説文などの客観的な文章に倒置法を用いると、大きな違和感が生じます。
そこで今回は、倒置法について、効果・注意点を、例文を挙げてわかりやすく解説いたします。
目次
【倒置法とは】文章の語順を逆にして印象を深める表現技法
倒置法とは、文章の語順を、普通の順序とは逆にする表現技法です。
「倒して置く」と書くことからもわかるように、主語と目的語と述語の語順を通常とは異なる配置にします。
例文で確認しましょう。
【例文:目的語の倒置法】
通常: 主語→目的語→述語
倒置法:主語→述語→目的語
通常: 私は あなたを信じている。
倒置法:私は 信じている、あなたを。
あえて通常とは異なる順序で表現することで、文章を印象的にする効果があります。
また、倒置された語句に深い意味があるかのように強調する効果もあります。
デジタル大辞泉によると倒置法の意味は次のように記載されています。
とうちほう【倒置法】
文などにおいてその成分をなす語や文節を、普通の順序とは逆にする表現法。語勢を強めたり、語調をととのえたりするために用いられる。
「どこに行くのか、君は」「起きろよ、早く」など。
倒置法を自然に使いこなせれば、単調な文章に変化が生まれ、魅力的になるでしょう。
倒置法が合うのは文学的に表現したい文章【小説・短歌・俳句】
倒置法は、感情をに訴える表現をしたい場合や、文学的で印象に残る文章を作成した場合に用いるのが適しています。
小説、短歌、俳句で、心を捉える表現をしたいときに相性がよいでしょう。
【小説の倒置法】文章を印象的にする
川端康成が書いた小説「雨傘」にも、倒置法による美しい表現があります。[注1]
「雨傘」は、少年と少女の初々しい恋心を描いた小作品です。
写真屋へ向かう道中では傘の中で身を寄せることもできなかった少年少女が、傘についてのあるできごとで、来る道よりもずっと落ち着いて心を通わせて帰途につきます。
「雨傘」の最後の文章に倒置法が使われています。
【引用:「雨傘」川端康成】
写真屋へ来る道とはちがって、ふたりはきゅうに大人になり、夫婦のような気持ちで帰っていくのだった。
傘についてのただこれだけのことでー。
「傘についてのただこれだけのことで」
この一文を巧みに倒置することで、傘についてのできごとを印象的に、いかに「ふたり」の距離を縮めたかを強調し、詩情豊かに表現しています。
ちなみに、傘についてのあるできごとは次のようなものです。
写真屋を出ようとして、少年は雨傘を捜した。ふと見ると、先きに出た少女がその傘を持って、表に立っていた。
少年に見られてはじめて、少女は自分が少年の傘を持って出たことに気がついた。
そして少女は驚いた。なにごころないしぐさのうちに、彼女が彼のものだと感じていることを現わしたではないか。
上記は、恋をしていない人にとっては、どうということのない出来事です。
しかし、言葉にできない恋心を抱く2人にとっては、ほんの少しのことも深い意味を持つ宝物のような出来事になることがあります。
だから、「傘についてのただこれだけのことで」を倒置することで、少しの出来事にも一喜一憂してしまう初々しい恋心が、美しく表現されるのです。
倒置法は、このように、細やかな心情を描く文学的な表現に使われます。
[注1]川端康成「雨傘」より
【短歌の倒置法】リズムをつけて強調したい想いを浮かび上がらせる
倒置法は短歌にも用いられます。
有名な石川啄木の短歌を例に挙げてご説明いたします。
【短歌:石川啄木】
「やはらかに 柳あをめる北上の 岸辺目に見ゆ 泣けと如くに」
(訳:やわらかな若葉が青い色で柳に芽吹く、北上川の岸辺の光景が自然と目に浮かんでくる。私に泣けと語り掛けるかのように)
石川啄木が、北上川を追憶し、望郷の念を込めた句です。
さて、この句の倒置法は、下記の部分です。
【石川啄木の倒置法】
*岸辺目に見ゆ 泣けと如くに
(岸辺の光景が自然と目にうかんでくる 私に泣けと語りかけるかのように)
通常の語順はこちらです
【石川啄木の倒置法を通常の語順に直すと】
*泣けと如くに 岸辺目に見ゆ
(私に泣けと語りかけるかのように、岸辺の光景が自然と目に浮かんでくる)
あえて語順を逆にすることで、「泣けと如くに」が強調され、作者の望郷の念が浮かび上がり、読者の心に強く訴える効果があります。
記事作成で倒置法を活用するならブログやコラムが向いている
ここまでの説明を読み、
「文学的な表現に向く倒置法は、インターネットの記事作成には使えないのでは?」
そうお考えになる方も多いかと思います。
確かに倒置法は、客観的に情報を述べる記事には向きません。
しかし、コラムなどでは、単調な文章に変化を持たせ、ユーザーに最後まで飽きずに読んでもらえる効果を期待できます。
- ユーザーの心に残る一文を書きたいとき
- どうしても印象づけたい文節があるとき
- 最後まで飽きずに読んでもらいたいとき
そんな、「ここぞという場面」で倒置法を用いてみるのもよいでしょう。
倒置法を自然に使いこなせたら、ユーザーの印象に残る記事作成も可能です。
読み手の理解を想像する
倒置法は、通常とは語順を逆にするという少し凝った表現技法です。
そのため、文章を作成した本人は「よい文章が書けた」と思っていても、読み手には違和感のある文章であったり、意味がわかりにくかったりすることもあります。
記事作成で大切なのは、読み手に負担をかけずにスラスラ読み取れる文章を作成することです。
倒置法で文章を書いた後には、必ず読み返して、次のことを確認しましょう。
- この文章を読む人がどう理解するか想像してみる
- 読み手の理解が自分の伝えたいことと合っているか考える
書いた文章を吟味することで、倒置法のような応用的な文章でも自然に使えるようになっていくでしょう。
倒置法を使う3つの効果
倒置法を上手に使えたなら、文章表現の幅が広がります。読み手に飽きさせずに読んでもらうためにも使えます。
倒置法を使うことによるおもな効果は次の3つです。
- 倒置された語句を強調する
- 文章を印象的にする
- 語気を強める
具体的に見ていきましょう。
倒置法の効果1. 倒置された語句を強調する
倒置法の最もわかりやすい効果が語句の強調です。
【例文:倒置された語句を強調する】
私は、あなたに会いたかった
↓
私は会いたかった、あなたに。
「あなたに」という部分が、強く伝わってきます。
ほかの誰でもない「あなた」であるという、特別な意味を持たせる効果があります。
たとえば、商品に関するブログ記事であれば、下記のように倒置法で強調してみてもよいですね。
【例文:ブログで倒置法を用いて語句を強調する】
ここ数年、不摂生がたたってお肌の調子は最悪でした。
そんな私をすっかり変えてしまったのです、この食物繊維たっぷりジュースが。
「食物繊維たっぷりのジュース」を強調して読み手にアピールする効果があります。
「ここぞ」という部分で語句を倒置すると、上手に強調できるでしょう。
倒置法の効果2. 文章を印象的にする
倒置法には文章を文学的に印象深くする効果もあります。
【例文:印象的な倒置法の文章】
通常: 彼が乗った船は、水平線に向かってどこまでも走っていった
↓
倒置法:彼が乗った船は、水平線に向かって走っていった、どこまでも。
倒置法を使うことで、水平線に向けて走っていく船の情景が余韻となり、印象に残ります。
このように、印象に残る文章を作成したいときに、倒置法を用いるとよいでしょう。
倒置法の効果3. 語気を強める
倒置法には言葉の勢いを強くする効果もあります。
おもに、話し言葉や、セリフで用いられます。
【例文:倒置法で語気を強める】
通常: 「もっと早く資料を送ってくださいね」
↓
倒置法:「資料を送ってくださいね、もっと早く」
上記の例文では、語気が強まり、「もっと早く」送ってほしいという気持ちが強調されます。
さらに、倒置法を使うことで、インパクトが増し、言葉に迫力を持たせられる使い方もあります。
【例文:倒置法で言葉に迫力を持たせる】
通常: 「どうなっても知らねぇぞ」
↓
倒置法:「知らねぇぞ、どうなっても」
…少々怖いですが、語気を強める効果は抜群ですね。
倒置法を使うときの3つの注意点
倒置法は、上手く使いこなせれば、美しく印象深い文章になりますが、失敗すれば、理解するのが難しい文章になってしまいます。
そんなことにならないように、倒置法を使うときの3つの注意点をおさえておきましょう。
注意点1. 倒置法を使いすぎない
倒置法を多く使いすぎると、不自然な文章になります。
使いすぎでは、理解や共感を得ることができません。使いすぎには注意しましょう。
【例文:倒置法の使いすぎ】
海のそばに広がる、光と風の佇まいが。
朝日が輝く、オーシャンフロントのベランダに。
美しく贅沢な日常がそこにある、海の風とともに。
…書き手の想いが先走ってしまい、読み手には何のことだかわかりません。
伝えるべきことを的確に伝えるなら、倒置法の多用はやめましょう。
ちなみに、上記の文章を通常の文章に直してみます。
【例文:倒置法の使いすぎを訂正した文章】
海のそばに広がる光と風の佇まい。
オーシャンフロントのベランダに朝日が輝きます。
海の風とともに暮らす、美しく贅沢な日常がそこにあります。
マンションの宣伝かな?とわかるようになりました。
くれぐれも、倒置法はエッセンス程度に、多用や無駄な使用は避けましょう。
注意点2. ビジネス文書や論文には使わない
倒置法は、感情を伝える詩的な表現に向くため、文学作品やブログ、コラムには向いています。
しかし、客観的に述べるべき文章には向きません。
- 論文
- 新聞
- ビジネス文書
上記のような客観的に事実を伝えるべき文章では、情緒的になりがちな倒置法は避けましょう。
通常の語順で事実を正確に伝えるのが適しています。
注意点3. 倒置法は体言止めと似ているが異なる
倒置法は「体言止め」と混同される方も多いようです。
「体言止め」は、語尾を名刺や代名詞で止める表現技法です。
体言止めの例文を見てみましょう。
【例文:体言止め】
通常: そこで店長おすすめのパスタを頼みました。
↓
体言止め:そこで食べたのは、店長おすすめのパスタ。
上記の例文のように、体言止めの場合の文末は名詞です。
一方、倒置法の文末は名詞ではありません。
同じ文章を倒置法で表現してみます。
【例文:倒置法】
通常: そこで店長おすすめのパスタを頼みました。
↓
倒置法:そこで頼んだのです、店長おすすめのパスタを。
例文のように、倒置法では、目的語などを倒置します。名詞で終わることはありません。
体言止めと倒置法はとても似ていますが、区別して使うようにしましょう。
体言止めについて、記事ブログ内にわかりやすく解説した人気記事があります。文章にリズム感が出る効果的な使い方などをお伝えしています。ぜひ、こちらもご覧ください↓
英語の倒置法
英語にも倒置法はあります。
わかりやすい例をご紹介いたします。
【例文:英語の倒置法】
通常: The story is wonderful.
倒置法:How wonderful the story is.
(日本語訳)
通常: その話は素晴らしいです。
倒置法:なんて素晴らしいの、その話は。
上記は英語の感嘆文です。
日常会話、歌詞、セリフなどに使用されることが多いようです。
英語の倒置法も理解できるととても楽しいですね。
倒置法を自然に使いこなして印象的な文章を作成しよう
倒置法は、「文学的な文章、感情に訴える文章」に向いている表現です。
一方で、論文などの「論理的な文章、客観的に説明する文章」には向きません。
記事作成では、コラムなどで「ここぞ」という場面に、倒置法を使います。
飽きさせない文章、印象に残る文章が作成できるかもしれません。
表現技巧は経験を重ねて上達するものです。適切な場面で倒置法を使ってみましょう。