「考え事をしていた」
「見たこともない…」
漢字の「事」とひらがなの「こと」は、表記の使い分けが必要です。
公用文では次のように使い分けます。[注1]
- 事:具体的な事柄・実質名詞
- こと:抽象的な内容・形式名詞
つまり、「考え事」のように具体的な事柄や実質的な意味がある名詞は「事」と漢字表記します。
一方、 「見ることができる」のような抽象的な内容の形式名詞はひらがな表記します。
記事作成だけでなく、小論文や履歴書など、「どちらで表記しよう?」とお悩みの方は参考になさってください。
[注1]参考:共同通信社「記者ハンドブック第13版」
目次
「こと」と「事」の違い
「事」と「こと」は、次に示す違いがあります。[注1]
例 |
||
事 | ・具体的な事柄
・実質名詞 |
考え事 見事 物事 事足りる |
こと | ・抽象的な内容
・形式名詞 |
聞いたことがある うまいことを言う することにしている 見たこともないような |
具体的なで意味のある名詞であれば「事」と漢字表記をします。
抽象的な内容で形式名詞であれば「こと」とひらがな表記をします。
それでは、「事」と「こと」、それぞれの使い方について詳しく見ていきましょう。
[注1]参考:共同通信社「記者ハンドブック第13版」
「事」は実質名詞として使う:例文
「事」は、具体的な事柄・実質名詞の場合に使います。
実質名詞とはなんですか?
実質名詞は、実質的な意味がある名詞です。
「事を起こす」であれば、「事件」という意味があります。
こうした場合には「事」と漢字を使います。
実質名詞には2つの見分け方があります。
【実質名詞の見分け方】
- 単独で使える(修飾語なしで使える)
- 別の言葉に置き換えられる
「事の起こり」
上記の言葉は、別の言葉に置き換えられます。
「物事の起こり」
つまり、実質名詞であるわけです。
そのため、「事」と漢字表記します。
「事」を使った例を表で確認してみましょう。
「事」の例 |
争い事 あらぬ事 芸事 事柄 見事 物事 出来事 習い事 願い事 約束事 事細かに 事足りる 事と次第によっては 事なかれ主義 事の起こり 事もあろうに 事のついでに 事を起こす 事に当たる |
「こと」は形式名詞として使う:例文
「こと」は、抽象的な内容・形式名詞の場合に使います。
形式名詞とはなんですか?
形式名詞は、実質的な意義が薄い名詞です。
「見たこともない」であれば、「こと」には実質的な意味はなく、節を名詞化するための役割しかありません。。
こうした場合には「こと」とひらがなを使います。
形式名詞には2つの見分け方があります。
【形式名詞の見分け方】
- 連体修飾語を受けて使う(単独では使えない)
- 節を名詞化する役割がある
「作文を書くことが得意だ」
上記の「こと」は、実質的な意味はなく、節を名詞化する役割があります。
つまり、形式名詞であるわけです。
そのため、「こと」とひらがば表記します。
「こと」を使った例を表で確認してみましょう。
「こと」の例 |
そんなことがあったとは… 見たことがない うまいことを言う 自分勝手なことをする ことによっては そのことは 用意しておくこと あんなことになるなんて …することになる 人のことみたいに …ことができる 噛むこと |
【おまけ】「為」と「ため」なら「ため」を使う
余談ですが、「為」と「ため」なら、公用文では「ため」を使います。[注1]
常用漢字表では、「為」には「イ」という読みしか記載されていないためです。[注2]
この指針によると、「為」という漢字は、「行為」「作為」など、「イ」の読みとして使います。
「事」と「こと」のように、「為」と「ため」で迷うことも多いようなので、ご参考までに…
[注1]共同通信社「記者ハンドブック」
[注2]文化庁/国語施策・日本語教育/国語施策情報/内閣告示・内閣訓令/常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)[pdf]
「事」を含むことわざ
さて、ことわざでは、「事」と「こと」はどちらが使われるでしょうか。
ことわざでは「事」と漢字表記します。
【事を含むことわざ】
明日の事は明日案じよ
何が起こるかわからないから今日から心配しても仕方ないということ。
明日の事を言えば鬼が笑う
先のことはわからない。未来のことは予測できない。
海の事は漁師に問え
その道のことは、その道の専門家に相談するのが最善の方法。
聞かぬ事は後学にならず
どんなことでも聞いておかなければ将来のための教養にならない。
ことわざの場合には、「事」と迷わず漢字表記して大丈夫です。
形式名詞はひらがな表記
「こと」と「事」は、漢字で書いてしまう場合が多いのではないでしょうか。
ビジネスメールであれば、固い印象の漢字表記を好んで使う方が多いのも確かです。
しかし、文章作成を生業にする方々では、「事」と「こと」は使い分けてみましょう。これらの違いを知っていることはプロのスキルともいえます。
- 実質名詞は「事」
- 形式名詞は「こと」
「こと」だけではなく、公用文では、形式名詞はひらがな表記します。
どちらであるか迷う場合には、「記者ハンドブック」など、指針となる書を開いて確認してみましょう。
小さな表現を一つひとつ大切に積み上げることで、文章に丁寧な印象が生まれます。