「という」の表記を迷うことがあります。
「Aさんという人」「Aさんと言う人」はどちらの表記が適切ですか?
「Aさんという人」です。
漢字の「と言う」は、「言葉で表す、述べる」という意味がはっきりしているときに使います。
「はっきりと言う」なら漢字表記です。
「という」という表現(!)は、頻繁に出番があります。時には、漢字表記かひらがな表記か迷うこともあります。
「言葉で表す・述べる」の意味がはっきりしているなら漢字表記の「と言う」、意味が薄れているなら「という」を使いましょう。
こちらでは、「という」の意味と使い方、「と言う」との使い分けや言い換えなどをご紹介します。間違えがちな「とゆう」についても解説いたします。
表記に迷ったときの参考になさってください。
目次
「という」の意味
「という」は、会話でも文章でも頻繁に使われる言葉です。
無意識にかなりの頻度で使われているのではないでしょうか。
「という」には、思っているより多くの意味があります。
デジタル大辞泉には「という」の5つの意味が記載されています。[注1]
【デジタル大辞泉】
と・いう【と言う】
1 人が…と呼ぶ。…と呼ばれる。
2 「と」の受ける事柄を取り立てて強調する意を表す。
3 数量を表す語句に付いて、…に達する、…にも及ぶ、などの意を表す。
4 時を表す同じ語を前後に置いて、それを強調する意を表す。
5 事物を表す同じ語を前後に置いて、そのものはすべて、の意を表す。
それぞれの意味について、例文で確認してみましょう。
【例文:という】
1 「クレオパトラという人」「ゼウスという神」
2 「女というのはわからないものだ」
3 「2メートルという高さ」「何千人という観衆」
4 「今日という今日は言わせてもらう」
5 「学校という学校はこれについて教えているはずだ」
これだけ意味があれば、頻繁に使われるのもうなずけます。
[注1]小学館/デジタル大辞泉
「という」の使い方:「という」「と言う」どちらで書く?
文章を作成するとき、「という」なのか「と言う」なのか、表記に迷うことがあります。
わかります。
指針となる書籍で確認しましょう。
共同通信社の「記者ハンドブック第13版」には、次の記載があります。[注2]
【いう】
=(云う、謂う)→言う
思ったことを言葉で表す、述べる
=いう
「言う」の実質的な意味が薄れた場合など
=(…と)いう
伝聞など
つまり、次のようにまとめられます。
- 「言葉で表す、述べる」という意味の場合→ 「と言う」
- 「言葉で表す、述べる」という意味が薄れた場合→ 「という」
たとえば、「彼女は『寒い』と言う」であれば、「いう」は「述べる」意味であるため、「と言う」と漢字で表記します。
「そんな事情があったというわけだ」であれば、「いう」は「述べる」意味ではないため、「という」とひらがなで表記します。
それぞれの場合を一覧で確認しましょう。
【「という」と「と言う」】
という | と言う |
あっという間に | 「あっ」と言う |
いざというとき | はっきりと言う |
〇〇さんという人 | 彼女は「〇〇」と言う |
どちらかというと | |
なんという寒さ | |
王というものは孤独だ | |
〇〇というわけだ | |
◯◯ということです |
上記のように使い分けましょう。
どうしても迷ったら、「いう」の部分を「述べる」に言い換えて考えてみましょう。
「いう」を「述べる」に言い換えても文章の意味が成立するのであれば、漢字の「と言う」と表記できます。
これに対し、「いう」を「述べる」に言い換えてしまうと意味が成立しないのであれば、ひらがなの「という」で表記します。
「という」と「とゆう」:「とゆう」は書き言葉では使わない
「という」を「とゆう」と書く方もいらっしゃいます。
これはどうなのでしょう?
「いう」を「ゆう」と発音することもあるため、そのまま表記してしまうパターンです。
「とゆう」と表記するのは誤りです。
「という」「と言う」が正しい表記です。
デジタル大辞泉にも次の記載があります。
【デジタル大辞泉】
ゆ・う【言う/云う/謂う】
「い(言)う」の終止・連体形を「ユー」を発音するところから、「ゆ」が語幹と意識されてできた語形。
終止・連体以外で「ゆわない」「ゆった」などと言うこともあるが、本来の言い方ではない。
また、常用漢字表では、「言」の読みは「ゲン」「ゴン」「いう」「こと」が示されていますが、「ゆう」はありません。[注3]
「という」「と言う」と同じ状況で、「とゆう」を使用するのは避けるほうがよいでしょう。
「とゆう」は正しい書き言葉とは認識されないと覚えておきましょう。
[注2]共同通信社「記者ハンドブック第13版」
[注3]文化庁/常用漢字表/pdf
「という」の言い換え
「という」では表現がしっくりしないと感じる場合があります。
言い換える方法はありますか?
少ないですが、あります。
では、「という」の言い換えをご紹介します。
【言い換え】
という(と言う) | 言い換え |
〇〇という遺跡 | 〇〇と呼ばれる遺跡 |
〇〇ということです | 〇〇だそうです |
はっきりと言う | はっきりと述べる |
なんという寒さ | なんたる寒さ |
貧乏という辛さ | 貧乏の辛さ |
いざというとき | 万が一のとき |
「という」か「と言う」か、表記に迷うとき、いっそ言い換えてしまうのも一つの方法です。
英語の「という」
英語にも「という」に類する表現があります。
calledとnamedは、「〇〇という人」などの表現に使われます。
a cat called Momo.(モモという猫)
a boy named Alex.(アレックスという少年)
a bird called white-cheeked starling.(ムクドリという鳥)
迷ったらひらがなで書く
「その人はAさんという人です」と書くときに、「Aさんと言う」と書くか「Aさんという」と書くか、一瞬迷うことがあります。
簡単に判断するなら次の基準で考えてみましょう。
- 「言う」(言葉で表す・述べる)の意味があるかどうか
言うの意味があれば「と言う」、言うの意味が薄れているなら「という」を使いましょう。
「Aさんという人」であれば、言うの意味は薄れているので「という」です。
漢字かひらがなか、どう考えても迷ってしまう場合には、ひらがなで書くのが無難です。