「敷居が高い」は、誤用されやすい言葉です。
下記が「敷居が高い」の正しい意味です。
- 不義理や面目のないことがあって、その人の家に行きにくい
「△あの店は高級過ぎて敷居が高い」というのは本来の意味とは違う使い方です。
「◯あの店は、先日酔って迷惑をかけてしまったから敷居が高い」
そんなふうに使うのが本来の使い方です。
ところが、「高級過ぎて入りにくい」という意味で誤用している人が約50%もいるというアンケート結果もあります。[注1]
今回は、「敷居が高い」について、本来の意味、多い誤用、類語、言い換え、正しい使い方を、例文を交えて解説いたします!
目次
【意味】敷居が高い:不義理などがあり行きにくい
「敷居が高い(しきいがたかい)」の本来の意味について、デジタル大辞泉には次のように記載されています。[注2]
敷居が高い
不義理や面目のないことがあって、その人の家へ行きにくい。
「不義理や面目のないこと」とは、借金をしていたり、連絡すべきところを何年もしていなかったりすることなどです。
「敷居が高い」を文学作品で確認してみましょう。
「初めは井筒屋のお得意であったが,借金が嵩んで敷居が高くなるに従って,かのうなぎ屋の常客となった。」
引用:岩野泡鳴 「耽溺」 明治42年
「井筒屋に借金が増えて行きにくくなるに従って」という意味で、「敷居が高くなる」が使われています。
つまり、「敷居が高い」は、不義理などが原因で心苦しく思うところがあって行きにくい場合に使われていたことがわかります。
お店などが高級過ぎて入りにくいときに
「敷居が高い」という言葉を使っていました!
それは本来の意味ではありません。
しかし、「敷居が高い」の意味を同じように勘違いしている人が約半数いるというデータもあります。
次で詳しく見ていきましょう。
[注2]小学館「デジタル大辞泉」
「敷居が高い」を誤用している人が約50%
文化庁の平成20年度「国語に関する世論調査」によると、「敷居が高い」は、本来とは違う意味で使われていることが多いのが分かります。[注3]
年代では、50代以上では、本来の意味である「不義理があって行きにくい」を選ぶ人が多く、30代以下では「高級過ぎて入りにくい」を選ぶ人が多いようです。
敷居が高い(例文:あそこは敷居が高い)
- (ア) 相手に不義理などをしてしまい,行きにくい・・・・・・・・・・・・42.1%
- (イ) 高級過ぎたり,上品過ぎたりして,入りにくい ・ ・・・・・・・・・45.6%
- (ア)と(イ)の両方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10.1%
- (ア),(イ)とは全く別の意味 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.3%
- 分からない ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1.9%
全体では、本来の意味である「相手に不義理などをしてしまい,行きにくい」と理解している人は42.1%と、半数を下回ります。
間違った意味である「高級過ぎたり,上品過ぎたりして,入りにくい」と理解している人は45.6%と、本来の意味で理解している人よりも若干多いようです。
「ハードルが高い」という言葉と意味を混同してしまうことが原因かもしれません。
[注3]文化庁/平成20年度「国語に関する世論調査」の結果について
「敷居が高い」の本来の使い方
「敷居が高い」の正しい使い方を教えてください
かしこまりました。
「敷居が高い」の本来の意味に沿った使い方を、例文で確認していきましょう。
【例文:敷居が高い】
ピアノの練習を全然していなかったので、次回のレッスンに行くのは敷居が高い。
意味:ピアノの練習を全然していなかったので、次回のレッスンは行きにくい。
【例文:敷居が高い】
あのお店は、先日酔ってお皿を割ってしまったお店なので、敷居が高い。
意味:あのお店は、先日酔ってお皿を割ってしまったお店なので、行きにくい。
【例文:敷居が高い】
叔父さんに借金を返していないので、叔父さんの家に行くのは敷居が高い。
意味:叔父さんに借金を返していないので、叔父さんの家には行きにくい。
「敷居が高い」の言い換え・類語表現
「敷居が高い」の類語をご紹介します。
- 門を塞ぐ(かどをふさぐ)
- 気後れする
- 気が引ける
- 萎縮する
- 頭が上がらない
上記に挙げた言葉のなかでは、「門を塞ぐ(かどをふさぐ」が、最も「敷居が高い」と意味が似通っています。
門を塞ぐ(かどをふさぐ)
「門を塞ぐ(かどをふさぐ)」は、「不義理をしてその家に行きにくくなる」という意味です。
「敷居が高い」の本来の意味とほぼ同じ意味です。
デジタル大辞泉には次のように記載されています。[注2]
門を塞ぐ
不義理をして、その家へ行くのが恥ずかしくなる。
「もはや方々の_・げた所で、どこへ無心言はうやうもないが」<続狂言記・昆布布施>
現在ではあまり使われることがない表現ですが、あえて使うなら、次のような使い方ができるでしょう。
【例文:門を塞ぐ(かどをふさぐ)】
お世話になった茶道の先生に年賀状を何年も書いていないため、門を塞いでしまった。
あちらの家からお借りした着物を汚してしまったことがあり、門を塞いでしまった。
そちらは借金があり門を塞いでいる親戚です。
気後れする
「気後れする」とは、「心がひるむこと」を意味します。
デジタル大辞泉には次のように記載されています。[注2]
きおくれ【気後れ】
相手の勢いやその場の雰囲気などに押されて、心がひるむこと。気おじ。
「人前だと_して話ができない」
「敷居が高い」では、こちらに非があるニュアンスですが、「気後れ」は相手の勢いなどが原因で心がひるむことを表します。
また、「家に行きにくい」という意味はありません。
例文で確認してみましょう。
【例文:気後れ】
大勢の聴衆を前に気後れしてしまった。
社長の前に立つと気後れする。
彼女はとても美人なので気後れしてしまう。
気が引ける
「気が引ける」は、「引け目を感じる」の意味があります。
デジタル大辞泉には次のように記載されています。[注2]
気(き)が引(ひ)・ける
気おくれがする。引け目を感じる。
こちらも、「家に行きにくい」という意味は含まれません。
例文で確認してみましょう。
【例文:気が引ける】
このような身なりでパーティーに出るのは気が引ける。
この点数を言うは気が引ける。
この成績では気が引けて何も言えない。
萎縮する
「萎縮する」は、「縮こまって小さくなること。元気がなくなること」を意味します。
デジタル大辞泉には次の記載があります。[注2]
いしゅく【萎縮】
しぼんでちぢむこと。また、元気がなくなること。
「寒くて手足が_する」「聴衆を前にして_してしまう」
こちらも「家に行きにくい」という意味は含まれませんが、「敷居が高い」と似ている使い方を例文で確認してみましょう。
【例文:萎縮する】
叔母さんには借金があるので家に行くのは萎縮してしまう。
メールに返信していなかったお客様に会いに行くのは萎縮した。
試験の結果が悪くて、先生に報告に行くのは萎縮してしまう。
頭が上がらない
「頭が上がらない」とは、「引け目を感じて対等の立場で振る舞えない」ことを意味します。
デジタル大辞泉には次の記載があります。[注2]
頭(あたま)が上(あ)がらない
引け目を感じて対等な関係に立てない。
「借金があるので_ない」
「家に行きにくい」という意味は含まれませんが、「敷居が高い」と似ている使い方を例文で確認してみましょう。
【例文:頭が上がらない】
親戚の家には借金で頭が上がらない。
先輩に迷惑をかけてしまって頭が上がらない。
いつもお世話になるばかりで頭が上がらない。
[注2]小学館「デジタル大辞泉」
「敷居が高い」と「ハードルが高い」
「敷居が高い」が「高級過ぎたり、上品過ぎたりして入りにくい」という意味として広まってしまったのには、「ハードルが高い」と混同されてしまった可能性があります。
「ハードルが高い」には次の意味があります。[注2]
ハードルが高(たか)い
乗り越えなくてはならない困難が大きいさま。
「初心者に高性能カメラは_い」
どことなく似ている表現が意味を取り違えて広まってしまうことはあります。
他にも、誤用の多い表現を記事ブログで時々ご紹介しています。↓
注意するとともに、言葉の豆知識を増やすことを楽しんでいただけたらと思います。
[注2]小学館「デジタル大辞泉」
「敷居が高い」を英語で言うと?
「敷居が高い」を英語で表現するとどうなるでしょう。
ジーニアス和英辞典には次の記載があります。[注4]
借金を返していないので彼のところは敷居が高い
I feel awkward about visiting him, for I haven’t paid him the money I owe(him).
「awkward」には、「気まずい」「きまりが悪い」などの意味があります。
「feel awkward about visiting」で、「訪ねるのは気まずい」「行きにくい」の意味を表現します。
さらに、借金などの理由を述べることで「不義理があって行きにくい」という「敷居が高い」と同じ表現になります。
同じような表現で、「hesitate to〜」を使うと、「〜するのがためらわれる」と言う意味になります。こちらのほうが使いやすいと感じるようなら、とっさの場合にはこちらを使ってみるのもよいでしょう。
[注4]大修館書店「ジーニアス和英辞典」
「敷居が高い」は本来の意味で使おう
「敷居が高い」は、「不義理または面目がないことなどがあって、その人の家に行きにくい」というのが本来の意味です。
「高級過ぎて行きにくい」という意味も認められつつありますが、本来は誤用であるため、その意味での使用は控えるほうが無難でしょう。
「敷居が高い」は、長く連絡をとっていなくて気まずい相手を訪ねる場合などに使用するとよいでしょう。
新しく普及してきた意味で使うことは間違いではないという考え方もあります。しかし、本来の意味でないと誤用であると認識する方も多くいらっしゃいます。
賛否両論ある書き方をするよりは、どのような方にも受け入れていただけるよう、言葉は本来の意味で使用することをおすすめします。