「ところ」と「所」は、公用文において使い分ける必要があります。
- …サービスしてみた ところ、大盛況でした
- …サービスしてみた 所、大盛況でした
上記の文章の場合、次のようにひらがな表記するのが正解です。
◯…サービスしてみたところ、大盛況でした
漢字表記が多い固めの文章を好む方では、つい「所」と変換してしまいそうですが、
公用文では「ところ」とひらがな表記するほうがよい場合もあります。
「ところ」の意味が、位置や場所ではない場合や、誤読のおそれがある場合にはひらがな表記します。
もちろん、位置や場所であれば、迷いなく「所」と漢字表記して大丈夫です。
公用文の「ところ」と「所」の違いと使い分けをわかりやすくご説明します。
プライベートな文章では、この指針を当てはめなければならないわけではありません。しかし、プロなら知っていて損はありません。
ぜひ、参考になさってください。
目次
「ところ」と「所」の違いと使い分け
公用文では、「ところ」と「所」は次のように使い分ける必要があります。[注1]
表記 | 基準 | 例 |
ところ |
|
今のところ
このところ …したところ 法律の定めるところ |
所 |
|
ある所
行く所 所書き 所々 |
「位置・場所を示す場合は『所』と漢字表記する」と覚えておくと迷いません。
わかりました。
「ある所で犬が吠えました。今のところ噛む心配はない」
といった表記にします。
位置・場所を示す場合は「所」と漢字表記しましょう。
位置・場所ではない場合や誤読のおそれがある場合は、「ところ」とひらがな表記します。
[注1]共同通信社「記者ハンドブック第13版」
漢字表記かひらがな表記か迷うことはよくあります。こちらの記事もご覧ください!↓
「ところ」の使い方:例文
「ところ」と、ひらがな表記するのは、次の場合です。
- 位置・場所ではない場合
- 誤読のおそれがある場合
文科審議会国語分科会の「新しい『公用文作成の要領』に向けて(報告)」には、形式名詞の「所・処」を「ところ」と表記するよう記載されています。[注2]
【引用:文化審議会国語分科会「新しい『公用文作成の要領』に向けて(報告)」】
形式名詞
例)事→こと 時→とき 所・処 △ →ところ 物・者→もの (ただし、「事は重大である」「法律の定める年齢に達した時」「家を建てる所」「所持する物」 「裁判所の指名した者」のように、具体的に特定できる対象がある場合には漢字で書く。) 中 △ ・内→うち(「…のうち」等。「内に秘める」などは漢字で書く。) 為 △ →ため 通り→とおり(「通知のとおり…」「思ったとおり」等。「大通り」などは漢字で書く。) 故→ゆえ(「それゆえ…」等。「故あって」などは漢字で書く。) 様→よう(「このような…」等) 訳→わけ(「そうするわけにはいかない」等。「訳あって」などは漢字で書く。)
「ところ」の使い方として、次の例が挙げられます。[注1]
「ところ」の例 |
今のところ
腕の見せどころ 落としどころ 思うところ 考えどころ このところ 米どころ 思案のしどころ …したところ …するどころではない 望むところ つかみどころ つまるところ 出どころ ところで 狙いどころ 非の打ちどころ 法の定めるところ 役どころ |
上記のように、位置・場所ではない場合や、誤読のおそれがある場合は、「ところ」とひらがな表記とします。
[注1]共同通信社「記者ハンドブック第13版」
[注2]文化審議会国語分科会/新しい「公用文作成の要項」に向けて(報告)[pdf]
「ところ」の接続助詞的用法
「…したところ」の形で、接続助詞的に用いることもあります。[注3]
この場合、もちろん、「ところ」はひらがな表記です。
【引用:デジタル大辞泉より】
(「…したところ」の形で接続助詞的に用いて)上述した内容を条件として文を続ける。順接にも逆説にも用いる。
「訪ねたー、不在だった」「依頼したー、断られた」
接続助詞的な用法の「ーところ」は、順接であれば「ーたら」逆説であれば「ーても」と言い換えることができます。
例えば、次のように言い換えても意味が成立します。
依頼したところ、引き受けてもらえた
↓
依頼したら、引き受けてもらえた
彼を訪ねてみたところ、会えなかった
↓
彼を訪ねてみても、会えなかった
ほかにも、例文で確認してみましょう。
【例文:「ーところ」の接続助詞的用法】
順接
出かけようとしたところ、雨が降ってきた。
(→出かけようとしたら、雨が降ってきた)
試験を受けたところ、合格した。
(→試験を受けたら、合格した)
逆説
原因をよく考えてみたところ、全くわからない。
(→原因をよく考えてみても、全くわからない)
彼女をずっと待っていたところ、結局現れなかった
(→彼女をずっと待っていても、結局現れなかった)
[注3]小学館「デジタル大辞泉」
漢字表記かひらがな表記か迷うことはよくあります。こちらの記事もご覧ください!↓
「所」の使い方:例文
「所」と漢字表記するのは、次のような場合です。
- 位置・場所を示す場合
次の例が挙げられます。[注1]
「所」の例 |
ある所
待ち合わせの所 至る所 居所 勘所 所構わず 所狭し 所々 所番地 所書き 所払い お所とお名前 お城のある所 |
上記のように、位置・場所を示す場合には、「所」と漢字表記します。
[注1]共同通信社「記者ハンドブック」
ビジネスメールでも使い分けてみよう
公用文での「所」と「ところ」の使い分けを解説しました。
それでは、ビジネスメールではどうでしょう。
ビジネスメールでも、公用文の表記と同じように漢字表記とひらがな表記を使い分けたほうがよろしいですか?
はい。
やはり、公用文の指針に沿った表記ができるほうがよいです。
ビジネスメールを書く場合も、公用文の指針を思い出してみましょう。
- ところ :位置・場所ではない場合、誤読のおそれがある場合
- 所 :位置・場所
例文で確認してみましょう。
【例文:ビジネスメール「所」と「ところ」の使い分け】
ところ
〇〇さんをお訪ねしたところ、ご不在でした。
今のところ、このような予測が出ております。
弊社の腕の見せどころです。
〇〇は米どころをして有名です。
問い合わせてみたところ、〇〇とのことでした。
所
お所とお名前の明記をお願いします。
所狭しと並べられております。
〇〇工場のある所をご存知でしょうか。
所々にあります。
パソコンで入力していると「所」と変換されてしまうことも多いのですが、
表記を指針を思い出して使い分けてみましょう。
おまけ:「政所」はどう読む?
政所は、政務を執り行う所、という意味です。
これをすぐに読める方は歴史好きの方かもしれません。
政所は「まんどころ」と読みます。
鎌倉幕府や室町幕府の政庁として知られています。
漢字表記かひらがな表記か迷うことはよくあります。こちらの記事もご覧ください!↓
「ところ」と「所」は使い分けよう
「ところ」と「所」は、ご紹介したように使い分けてみましょう。
位置・場所を示す場合には「所」、その他は「ところ」と、ざっくり覚えてみるのもよいでしょう。
表記の指針に基づいて文章を書いていくと、読みやすくすっきりした文章に仕上がります。
小さな積み重ねを大切に書いていきましょう。